振り返れば、成長したのはいつも試練を乗り越えたときだった。アマチュア、そしてプロでも立ちはだかる壁を崩してきた。今、目の前には納得のできない自身とチームの成績がある。ならばもう一度、さらに進化を遂げるしかない。 写真=桜井ひとし、BBM 人生を変えた苦い失敗
緊張気味の子どもたちに声を掛けると、パッとその場が明るくなる。今季、
大野雄大は毎月1回、10組のひとり親家庭をナゴヤドームに招く企画を始めた。
「みんなキラキラしていますね」 試合後、自ら出向いて写真を撮り、話をする。そのとき必ず口にすることがある。
「普段みんながご飯を食べたり、学校に行けたり、家がきれいだったりするのはお母さんがやってくれているから。だから当たり前だと思わないでほしい。普段から感謝していると思うけど、タイミングがあればお母さんに『ありがとう』という言葉を伝えてください」 大野自身、母・早苗さんに女手ひとつで育てられた。
「僕も母親を見ていたけど、シングルマザーって本当に大変だと思います。だから『ありがとう』って子どもが言うだけで、明日から頑張れるお母さんが増えるんじゃないかなと思うんです。これからも何かしらの形でこういうことを続けていきたいです」 大野にも原体験がある。1999年の7月。早苗さんに連れられ、甲子園へ向かった。オールスターの日だった。カクテル光線に照らされ、鮮やかな芝と黒土のグラウンドが浮かび上がる。その舞台の視線を独り占めにしていたのが、当時
阪神の
新庄剛志だった。
「強烈な経験でした」 全身を駆け巡る高揚感は今でも忘れられない。そして思い返すのは母への感謝。
「平日は朝から晩まで働いて、週末は体を休めたいこともあったでしょうけど、テーマパーク、海、山、川、いろいろなところに連れて行ってくれました。今思うと、ようそんなに行けたなと……。オールスターもそうですけど、自分がひとり親だったらそこまでできるかなと思ってしまいます。家計も苦しい中、いろいろとやりくりしてくれていたのだと感じますね」 恩返しを誓って、プロの世界に飛び込んでから7年。同じ境遇の子どもたちに笑顔を届けることがかなった。
あの日がなかったら、そうはなっていなかったかもしれない。一度だけ真剣に「野球をやめたい」と思ったことが・・・
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