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野球浪漫2017

中日・大野雄大 逆境から這い上がる 「ここでダメなら今年はもう上のマウンドには立てない。そういう気持ちだった」

 


振り返れば、成長したのはいつも試練を乗り越えたときだった。アマチュア、そしてプロでも立ちはだかる壁を崩してきた。今、目の前には納得のできない自身とチームの成績がある。ならばもう一度、さらに進化を遂げるしかない。
写真=桜井ひとし、BBM

人生を変えた苦い失敗


 緊張気味の子どもたちに声を掛けると、パッとその場が明るくなる。今季、大野雄大は毎月1回、10組のひとり親家庭をナゴヤドームに招く企画を始めた。

「みんなキラキラしていますね」

 試合後、自ら出向いて写真を撮り、話をする。そのとき必ず口にすることがある。

「普段みんながご飯を食べたり、学校に行けたり、家がきれいだったりするのはお母さんがやってくれているから。だから当たり前だと思わないでほしい。普段から感謝していると思うけど、タイミングがあればお母さんに『ありがとう』という言葉を伝えてください」

 大野自身、母・早苗さんに女手ひとつで育てられた。

「僕も母親を見ていたけど、シングルマザーって本当に大変だと思います。だから『ありがとう』って子どもが言うだけで、明日から頑張れるお母さんが増えるんじゃないかなと思うんです。これからも何かしらの形でこういうことを続けていきたいです」

 大野にも原体験がある。1999年の7月。早苗さんに連れられ、甲子園へ向かった。オールスターの日だった。カクテル光線に照らされ、鮮やかな芝と黒土のグラウンドが浮かび上がる。その舞台の視線を独り占めにしていたのが、当時阪神新庄剛志だった。

「強烈な経験でした」

 全身を駆け巡る高揚感は今でも忘れられない。そして思い返すのは母への感謝。

「平日は朝から晩まで働いて、週末は体を休めたいこともあったでしょうけど、テーマパーク、海、山、川、いろいろなところに連れて行ってくれました。今思うと、ようそんなに行けたなと……。オールスターもそうですけど、自分がひとり親だったらそこまでできるかなと思ってしまいます。家計も苦しい中、いろいろとやりくりしてくれていたのだと感じますね」

 恩返しを誓って、プロの世界に飛び込んでから7年。同じ境遇の子どもたちに笑顔を届けることがかなった。

 あの日がなかったら、そうはなっていなかったかもしれない。一度だけ真剣に「野球をやめたい」と思ったことが・・・

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苦悩しながらもプロ野球選手としてファンの期待に応え、ひたむきにプレーする選手に焦点を当てた読み物。

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