ひたむきに、真っすぐに野球と向き合ってきた。出場機会を失っていたDeNAから日本ハムに移籍した中堅捕手は、若手がひしめく新天地で前だけを向いて突き進んでいる。チャンスをくれた周囲への恩返しと、自分自身の壁を乗り越えるために──。まだまだ野球への情熱は尽きることはない。 文=井上陽介(スポーツライター) 写真=高原由佳、BBM 突然のトレード通告
黒羽根利規は苦笑いしながら言った。
「体全体が張っていますよ。2イニングしか出ていないのに」。5月12日の
西武戦(札幌ドーム)で今季一軍初昇格。8回から途中出場でマスクをかぶった。プロ14年目の“開幕”だった。何年経っても緊張する。3点ビハインドの展開も関係ない。必死に投手を無失点に導く。ただ、それだけを考えてリードしていた。いつものようにひたむきに。
2017年7月。野球人生の転機が訪れた。当時はDeNAで二軍生活。一軍捕手陣は
高城俊人(現
オリックス)、
嶺井博希、
戸柱恭孝の3人が盤石だった。二軍で好調を維持していても黒羽根にはチャンスが巡ってこなかった。そこに捕手陣に故障者が相次いでいた日本ハムと、中継ぎ、または先発ができる左腕の強化を目指していたDeNAの思惑が合致。エスコバーとの交換トレードがまとまった。
黒羽根は当時のDeNAのGMだった
高田繁に呼び出されて、こう言われた。
「ファームで調子がいいのは分かっているし、まだ全然動けるのは知っている。ただ、ウチでは使うところがないんだよね」。突然のトレード通告は、プロ12年目を迎えていた中堅捕手にとっては救いの言葉となった。
「僕はうれしかったです。昔と違って、今は後ろ向きなトレードは少ないです。僕を必要としてくれるところがあるというとらえ方をした。それこそ本当に獲ってくれたという思いがすごくありました」 日本ハムでは移籍初年度に19試合に出場。スタメンマスクも10試合を数えた。ただ18年は2試合、今季は5月末時点で4試合。若手を積極起用する球団であることは黒羽根も熟知している。捕手陣ではコーチ兼任の
實松一成、
鶴岡慎也に次いで3番目の年長者。今シーズンで23歳になった
清水優心、24歳になる
石川亮が中心だ。
それでも
「落ち込むことはないです。腐ることもないです。やれることをやるだけですから・・・
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