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V奪回を狙う日本ハムに待望のシンデレラボーイが誕生した。プロ3年目の上沢直之。シーズン開幕から先発ローテの一角に食い込み、8月3日時点でチーム2位の7勝をマーク。無印右腕が一躍スターダムへ。20歳の超新星、その覚醒の秘密に迫った。
取材・構成=松井進作 写真=高原由佳、BBM

危機感がもたらした3年目の覚醒


──今シーズンは開幕から先発ローテに定着して7勝をマーク(8月3日現在)。過去2年は一軍登板すらなかったわけですから、今までにない充実感の中で野球がやれているのではないですか。

上沢 一軍でこうして投げさせてもらえていることはすごくやりがいもあってうれしいですけど、充実感という感覚はそんなにないんですよね。むしろ今も危機感しかないというか。とにかく毎日が必死なので。

──ここまでの成績にもまだまだ満足できていない。

上沢 7勝という数字だけ見れば出来過ぎかなぐらいに思っていますけど、いつ調子を落として(先発ローテを)外されるか分からない立場なので。これからも1試合、1試合が勝負という気持ちは開幕当初と何も変わってないです。

──まだ自分の中でポジションをつかんだ手応えはない。

上沢 まったくないですね。この3年目というのは僕の野球人生を左右する1年、今年ダメならクビぐらいの覚悟でずっとやってきましたし。こんなレベルで満足していたらすぐにポジションなんて奪われてしまいますから。

─高卒3年目ですでにがけっぷちに近い危機感を感じていたと。

上沢 嫌というほど感じていました。過去2年はファームでもまったく結果を出せていませんでしたし、近藤(健介)をはじめ、同期入団の選手たちが次々に一軍デビューもしていましたから……。高卒だからとか、まだ3年目だとか、そんな悠長なことは言っていられないとは常に思っていました。そういう意味でも今年は一軍のマウンドで投げることに飢えていましたし、絶対に一軍に定着するんだという思いでやってきました。それができないならチーム内での僕の存在理由ってなんなのかなと。

──そんな思いと努力のかいもあって、4月2日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で一軍初登板初勝利(6回3安打1失点)を飾りました。勝利の瞬間はどんな気持ちでしたか。

上沢 もう、うれしさというより安堵感だけですよね。この試合で結果を残せなかったら次のチャンスはないぐらいの気持ちでマウンドに上がっていましたから。

4月2日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)でプロ初登板初勝利。高卒3年目で待望の歓喜の瞬間が訪れた(写真=湯浅芳昭)



──初勝利の相手は12球団でも一、二を争う破壊力を持つソフトバンクでした。実際に対戦してみてどんな印象を持ちましたか。

上沢 先頭バッターの中村(晃)さんに3球目の良いコースのストレートを簡単にレフト前に打たれたんですよね。その瞬間は「やっぱりすごいな……」と感じました。でも、その1本でどこか吹っ切れたというか、試合により入り込めた感覚もありました。

──初勝利後もコンスタントに勝ち星を積み重ねてきたわけですけど、ここまで勝てるようになった要因はどのあたりにあるとご自身では思っていますか。

上沢 最初はやっぱり勢いもありましたし、相手チームもあまり僕のデータがなかったことも要因のひとつなのかな、と。技術面ではストレートでファウルが取れるようになったことが大きいかもしれません。やっぱり基本となるストレートに力があるとほかの変化球も生きますから。とにかく一軍で勝負するにはそこを磨いていかないとダメだと思っていたので。少しずつですが、ようやくこれまでの練習やトレーニングの成果が出てきてくれた手応えはあります。あとはフォークボール。このボールが配球の中に加わったことが実は一番のポイントかもしれません。

──フォークボールを投げ始めたのは今シーズンから?

上沢 持ち球の中にはずっとあったんですが、本格的に投げ始めたのは今年からです。昨年もほとんど投げていませんから。

──使おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

上沢 単純に勝負どころでもっと三振が取れるボールが欲しかったんですよね。チェンジアップがあるんですけど、そこまで三振は奪えなかったので。それで2月のキャンプ、オープン戦から本格的に投げ始めてみたんです。

──そこで手応えをつかんだ。

上沢 そうですね。コーチの方からも良いんじゃないかと言ってもらって。おそらくこのボールがなかったらここまで勝てていないんじゃないかなと。それぐらいストレートと同じぐらい僕のピッチングの生命線となってくれているボールです。

──技術面でほかに課題として取り組んでいることは?

上沢 挙げればいろいろありますけど……カウント負けしてしまうところですかね。最初の方は勢いでどんどん投げ込めていたんですけど、登板を重ねていくうちに打たれる怖さからか、厳しいコースを狙い過ぎてしまっているんですよね。結果的にそれでカウントを悪くし、ストライクを取りにいって狙い打たれる悪循環。もちろんそれは僕自身の技術不足の問題なんですけど、これから先もコンスタントに勝っていくにはそのあたりもレベルアップしていかないと、とは思っています。相手もより研究してくるでしょうし、それに負けない力をつけていきたいです。

後半戦もキーマンの1人として期待される急成長を続ける若き右腕。残り3勝に迫った2ケタ勝利は最低限のノルマだ(写真=井田新)



大谷翔平の存在に刺激を受けて


──グラウンド内外で年齢も近い大谷翔平選手と行動をともにすることが多いですが、彼のことをどう見ていますか?

上沢 もう、すごいの一言(笑)。

──それはどんな部分で?

上沢 投げるボールも一級品でありながら、バッターとしてもあれだけの成績を残しているわけですから。本当に僕らが考えられないことをやってしまっている。それに話をしていても感覚がほかの人とはちょっと違うんですよね。言葉ではなかなか表現しづらいんですけど、技術的な話をしていてそれはすごく感じます。

 だから実は話を聞いてもあんまり参考にならない(笑)。ただ、アイツの活躍というのはすごく刺激にはなっていますよね。年下であり、普段一緒にいる機会も多いだけにどこかで負けたくない気持ちもありますし。ライバルという感覚とはちょっと違うんですけど、これから先も切磋琢磨していければいいなとは思っています。

1歳下の大谷翔平と行動をともにすることも多い上沢。良き友であり、大きな刺激を受ける存在でもある(写真=桜井ひとし)



──シーズンもいよいよ残り50試合を切りました。数字的な目標はありますか。あと3勝に迫った2ケタ勝利をはじめ、新人王獲得も十分狙えるチャンスがあります。

上沢 そういうのはまったくないですね。数字とか、新人王とか意識してしまうとダメになってしまうので、1試合、1試合のマウンドを大切にしていくことだけを考えていきたいです。とにかく1年間先発ローテを守り通すこと。それが現在の最大にして最低の目標でもあります。あとは何よりもチームがまだまだ優勝を狙える位置にいるので、僕も1つでも多く勝利に貢献して、秋にはみんなで喜びを分かち合いたいです。
PROFILE

うわさわ・なおゆき●1994年2月6日生まれ。千葉県出身。187cm88kg。右投右打。専大松戸高から12年ドラフト6位で日本ハム入団。1、2年目は二軍で過ごし、3年目の今シーズンは春季キャンプから初めて一軍入り。実戦で結果を残して先発ローテの一角に食い込み、大谷翔平とともに投手陣の軸になっている。2014年シーズンの成績は17試合登板、7勝6敗0H0S、防御率3.43(8月11日現在)。
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週刊ベースボール編集部が注目する選手にフォーカスするインタビュー企画。

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