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岩隈久志のメジャー適応力と偉大な記録への挑戦


ここまでメジャー自己最多タイの14勝を挙げている岩隈投手(写真=AP)



 14勝6敗、防御率2.66、219イニング投球、四球0、これは2013年にマリナーズの岩隈投手が残した記録です。しかも、メジャーリーグの最高投手に与えられるサイヤング賞で、マックス・シャーザー(デトロイト・タイガース)、ダルビッシュ有(テキサス・レンジャース)に次ぐ3位の投票数を集めました。

 彼が楽天からメジャーリーグに行く時に、我々スカウトは「細い体なので中4日でのローテーションは厳しい」という報告を上層部にしていました。

 渡米後のマリナーズの評価も「右肩周辺の筋肉が(ほかのメジャー選手に比べて)弱く、先発での中4日は難しい」という評価をしていたので、我々と同じ評価でした。

 しかし、中継ぎからスタートをした岩隈投手は見事に我々の評価を覆しました。2012年、メジャー1年目は日本での先発とは異なる中継ぎの役割を与えられました。本人の心中を察すると何とも厳しい世界だと感じた事ではないでしょうか。

 本人も初登板から4試合で3本のホームランを打たれた時のコメントにあったように「本当に自分はメジャーでやっていけるのだろうか?」と不安になった時もあったようです。

 そこで彼は「先発の座を勝ち取るために考えた事」があったそうです。それは相手打者の優位を認めた事です。普通の選手からはあまり聞かない言葉だと思います。

 メジャーのバッターは力があるので、パワー対パワーでは勝てません。その為、コントロールで勝負をする事を選びました。多彩な球種を持つ岩隈投手はアメリカに行き変わった事と言えばツーシームを多投するようになりました。右打者には内角を攻めるだけでなく、アウトコースのボールゾーンからストライクに変化をさせて、カウントを稼ぐことも覚えました。

 また、彼の投球フォームが沈みすぎる事もマイナスの評価になっておりましたが、メジャーに行ってからはフォーム修正をし、角度をつけると事で高さに幅が出て、スプリットが活きるようになりました。背の高い選手が多いアメリカではそれが武器となったと思います。

 彼の調整法にも驚いた事があります。日米の球界では、さまざまな違いがありますが、例えば、投手の調整法です。日本ではスタミナをつける為にランニングが重視される一方、アメリカの投手は一般的にあまり走らないのです。

 多くの日本人がランニング重視をしていた中、彼はアメリカ流の調整法を試みていました。中6日の日本式と、中4日のアメリカ式を試したのです。何故、アメリカの投手は走らないのか自ら試してみて分かったそうです。中4日のアメリカでは投げない日を「休息」と捉えていた事だったそうです。今までランニングにあてていた時間をウェートトレーニングや肩のインナーマッスル、体幹を鍛え、さらに、ゆっくり休息を取り入れたそうです。

 日本とアメリカでは、評価の基準も異なります。日本では「先発完投や、勝ち星」。一方、アメリカでは「怪我をせずに、7イニングを投げる事」。中4日で先発をしながら100球と球数の中でいかにゲームプランを立て、少ない球数でアウトを取っていく事がアメリカでは求められます。新天地に飛び込めば、環境やトレーニング方法の違いから受け入れていくことに不便に感じる事もあると思います。そこで彼はまず現実を受け入れてみる事で違いを感じ、違いを次のステップにどう生かしていくか彼は柔軟に対応した投手だと思います。

注目すべきは「勝ち星」と「四球数」


 2014年シーズンで岩隈投手の記録をみていくと、驚く数字がいくつも出てきます。

 まずは1920年以降で、初登板から先発50試合での通算防御率が2.58で歴代1位だという事です。あのクレイトン・カーショー(ドジャース)が2.64で2位なのです。また岩隈投手が投球をしている時の相手の盗塁成功率が0%という事です。右投げの投手は一塁ランナーに背を向けてピッチングをするため、この記録も凄い記録ではないでしょうか。

 何故、岩隈投手は盗塁されないのか?それはクイックモーションが優れているからです。同じマリナーズのチームメイトである「キング」ことフェリックス・ヘルナンデス投手の登板時では、19回中16回も盗塁を許しています。この結果を見ても、岩隈投手の成績の素晴らしさは一目瞭然です。2014年、7月1日〜24日まで岩隈投手は「5先発試合・連続無四球」という球団新記録を打ち出しました。

 私個人が注目をしているのは、「勝ち星」と「四球」の数です。現在岩隈投手は14勝(9月16日現在)をあげており、与えた四球は18個。もし、四球の数より勝ち星が上回ってシーズンを終える事があればそれは驚愕すべき記録だと思います。

 歴史を振り返ると、1893年以降、四球の数より勝ち星が上回ってシーズンを終えた投手(規定投球回数以上)は3人しかいないのです。ニューヨーク・ジャイアンツのエースとして活躍し、歴代3位の通算373勝を残したクリスティ・マシューソン(1913年=25勝11敗・21与四球、1914年=24勝13敗・23与四球)、ブラックソックス事件の舞台となった1919年のワールドシリーズで世界一に輝いたシンシナティ・レッズのスリム・サリー(1919年=21勝7敗・20与四球)、そしてカンザスシティ・ロイヤルズ時代にサイ・ヤング賞を2度受賞したブレット・セイバーヘイゲン(1994年=14勝4敗・13与四/当時ニューヨーク・メッツ)です。残りのシーズンで4勝は厳しいかもしれませんが是非頑張って欲しいです。
著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。メンタル・フィジカルのバランスの良い選手が好み。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。

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現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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