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イチローと黒田 ヤンキースが2人と契約する可能性は?

 

 先日、サンフランシスコ・ジャイアンツがワールドシリーズを制しシーズンが終了しました。今後は本格的なオフに入ると同時に全ての球団が補強に動き始めます。そこで今回は昨年オフに田中投手の補強で注目を集めたニューヨーク・ヤンキースの今オフの補強についてお伝えしたいと思います。

 毎年の事ですがヤンキースの補強には全米メディアも大変興味を示し、先日にはブライアン・キャッシュマンGMも3年の契約を延長したばかりですので、これから腰をすえて編成の仕事に取り組めるのではないでしょうか。キャッシュマンGMが契約を延長した際に、チームの補強に関してハル・スタインブレナー共同オーナーは、「先発ローテーションとジーターの抜けたショート」が優先順位の高い課題だと語っていました。

黒田投手との再契約は


来年は41歳になる黒田。今年は先発ローテを守り11勝(9敗)を挙げたが……



 まずは投手についてですが、1年間唯一ローテーションを守り続けた黒田博樹がFA(フリーエージェント)となり、日本への復帰も噂されております。昨年はヤンキース側が(※)クオリファイングオファーを提示し黒田選手側がオファーを拒否し契約を結んだ経緯がありましたが、私は今オフについてはクオリファイングオファー自体を黒田投手に提示をしないとみております。

 それは年齢によるもので来年41歳を迎える黒田投手に約17億円の年俸は高いと首脳陣が判断をしていると言われているからです。もし黒田投手に同じ年俸を払うのであれば、5億円前後の投手が3人いた方がチームにとってはリスクが少なくてすむからです。来季のヤンキースの先発ローテーション候補として、田中将大、C.C.サバシア、マイケル・ピネダ、イバン・ノバなどが候補となっています。

 ご存知の方も多いかと思いますが、C.C.サバシアは膝の手術を行い、リハビリは順調と報じられていますが、2014年内はブルペンでの投球をしない方針で、本格的な投球再開は15年2月中旬からのスプリングトレーニングからと伝えられています。

 イバン・ノバは4月末にトミー・ジョン手術を受け、復帰まで12ヶ月から18ヶ月かかると言われているので、2015年のオールスターゲーム前後が復帰の目安の1つとなりそうです。私の予想ですが、田中将大投手とマイケル・ピネダ両投手に関しては、健康であれば、ある程度の数字を残すと思いますが、その中でピネダ投手はマイナーを合わせても、マリナーズ時代の2011年に171イニングを投げたのが最多で、その後は、故障が多くシーズンを通じて投げたことがないので、唯一の懸念材料ではないでしょうか。

 また、田中将大投手に関しては、手術は行わずにPRP療法を選択しまたが、アメリカでは肘の靭帯は自然修復はしないと言われているため、爆弾を抱えてシーズンを投げ続けることになるので、いつかは「その時」がやってくる可能性が高いのではないかと私個人は感じております。

 2015年の開幕時の先発ローテは、少なくとも田中将大投手、CCサバシア、ピネダの3人が予定されておりますが、最低でもあと2人はローテを守れる投手が必要だと思います。

 そこで今オフのFA投手で注目されている、マックス・シャーザー、ジョン・レスター、ジェームズ・シールズのビッグ3のうちの、最低1人とは契約をし、ブランドンマッカーシーとの再契約、もしくは同等のFA投手の獲得を目指すことになるのではないのでしょうか。

 私個人の意見ですが今オフにヤンキースの投手補強の優先順位としてはジョン・レスター、ジェームズ・シールズ、マックス・シャーザーの順番ではないかと思います。どうしてジョン・レスターが1番かというと、ワールドシリーズでの通算防御率0.43という大舞台での強さをヤンキース幹部が高く評価しているとの情報が伝えられています。

 マックス・シャーザーについては、31歳からの6年から7年の長期契約になる可能性が高いことや、年平均で2500万ドルから2800万ドルは必要と見られている為現実的ではないかと思います。しかしそこはヤンキースですので大金を使いシャーザーを獲得する可能性は残されております。

 そのシャーザーと比較するとジョン・レスターやジェームズ・シールズは1800万ドルから2000万ドル程度と、金額が低く抑えられることや、ア・リーグ東地区での経験と実績があるため、チームに貢献が出来ると思います。

 また今季途中加入のブランドン・マッカーシーは、2014年全体では防御率4.05/10勝15敗/WHIP1.28でしたが、ヤンキース移籍後は防御率2.89/7勝5敗/WHIP1.15と良いパフォーマンスを見せました。このようにヤンキースに移籍後も結果を残していることに加えて、予想される年俸も1200万ドルから1300万ドル程度になる見込みで、トップクラスのFA投手の半額程度になるのも魅力となっている投手です。

 もしこのブランドン・マッカーシーが他球団と契約することになると、年俸が同程度になると見こまれる投手として、パイレーツからFAとなるフランシスコ・リリアーノあたりも候補となる可能性はありそうです。

 またヤンキースは今年クローザーを務めたデビッド・ロバートソンに1年1530万ドルのクオリファイングオファーを出すだろうとの見通しが強くなっているとの事ですが、デビッド・ロバートソンは、それを拒否せずに受け入れて、1年1530万ドルでヤンキースに残るのではないでしょうか。

 仮にクオリファイングオファーを拒否した場合には、獲得するチームはドラフト指名権を失う上に、年平均1000万ドル以上の3年から4年契約を提示する必要があるため、リリーフ投手にそこまで代償を払うチームはいないだろうと見られているためです。1年1530万ドルの年俸は、2015年シーズンのクローザーとしては、最高年俸になる可能性が高い金額で、デビッド・ロバートソンにとっても魅力のある契約ではないでしょうか。

イチロー選手との再契約は


 14年のイチロー選手は今季序盤に外野手の5番手という位置付けで代打、代走、守備固めという限定的な起用法となりましたが、一時はライトの定位置を確保するなどし、今シーズンは359打数102安打、打率2割8分4厘、22打点、1本塁打、15盗塁という成績を残しました。メジャー通算3000本安打という金字塔に156本と迫っています。

 これは私個人的な意見ですが「1年契約ならあるのでは」とみております。その理由としては現在ヤンキースには、カルロス・ベルトランジャコビー・エルスベリー、ブレット・ガードナーという3人のレギュラーがおりますが、いずれも年間通してプレーすることに不安があるからですお気に入り詳細を見る。

 特に今シーズンは、ベルトランが右ひじの故障で戦列を離れ、復帰後も守備機会が限られました。その関係でイチロー選手の出場機会が増えたのですが、ヤンキースとしては、イチロー選手に再び、バックアップの役割を期待しても不思議ではないと思います。

 また、他のヤンキースの選択肢としては、あと2つあると思います。一つ目は、マイナーからの昇格です。現時点では、ゾリオ・アルモンテ、アドニス・ガルシアという2人の候補がいると事で、来年のキャンプで4番目の外野手枠を競わせることも出来る事です。これはひとつの賭けになりますが、あくまでも控えなので、リスクは低いと思います。

 そして二つ目は、いつものようにFA(フリーエージェント)選手と契約し、穴を埋める方法です。ただその場合の狙いは、トップFAというわけにはいかないと思います。メルキー・カブレラ、ネルソン・クルーズ、コルビー・ラスマス、ニック・マーカキスら、実績のある選手らと契約すれば、おそらくベルトランを指名打者中心の起用にせざるを得ないからです。しかしDH候補ばかりを補強してもチームにはメリットは少ないどころかマイナスになると思います。

 もちろん、今回イチロー選手はFAである以上、イチロー選手にも選択肢はあります。ヤンキースであれば、控えを前提とした契約。よってより多くの出場機会を求めるなら、移籍した方がその可能性は増すと思われます。パワーというより、スピードや守備力を求めているのはおそらく、パドレス、ツインズ、マリナーズあたり。メッツ、アスレチックスの可能性もゼロではないでしょう。イチロー選手を必要とするチームは必然的に絞られていくと思いますが、中でも、イチロー選手の能力を買っているのは、新しくパドレスのGMに就任したA.J.・プレラーではないでしょうか。

 レンジャーズのアシスタントGMだった彼は、イチローのようなタイプの選手を好み海外選手についても理解があるGMです。広いペトコパークなら、イチロー選手の守備力も生かせる。パドレスなら、レギュラーのオファーを出すことも十分考えられそうです。

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ジーターの後継者とセカンドの補強は


 ジーターの抜けたショートを埋める最有力候補と見られていたのはオリオールズのJ.J.ハーディでしたが、オリオールズと早々に3年4000万ドルで契約延長をしてしまいました。そのためFA選手で獲得候補となるのはハンリー・ラミレス、アズドルバル・カブレラ、スティーブン・ドリューなどが補強の中心になってくるのではないでしょうか。いずれにしてもジーターの後継者には時間が掛かると思います。

 14年はロビンソン・カノ―(マリナーズ)が抜けて軸が固定出来なかったヤンキースですが、15年私が期待している選手がロバート・レフスナイダー選手です。2014年のレフスナイダー選手はAAとAAA通算で137試合515打数で打率.318/出塁率.387/長打率.497/OPS.884の数字を残しています。2014年開幕当初にブライアン・キャッシュマンGMは、2014年中に昇格はさせずマイナーで経験を積ませ、2015年にはレフスナイダーにチャンスを与えていると語っており、また私も彼のプレーを見ましたが、セカンドとして試してみるのが良いと感じています。

 また、ヤンキース首脳陣は14年全休したアレックス・ロドリゲスに対してウィンターリーグでプレーさせることで状態を確認したかったようですが、本人が拒否したため、実現しなかったそうです。私は試合勘を取り戻すのに少し時間が掛かるように思います。仮に以上で述べた全ての選手の補強をヤンキースが敢行するとなると、2015年に再び年俸総額でMLBトップになり、ぜいたく税として2000万ドルから2600万ドルを支払うことになると考えられます。

 チームとして14年までに贅沢税を減らす考えを持っていましたが13年オフの田中投手の補強で贅沢税を抑える事が出来ませんでした。2009年以来のワールドシリーズ制覇に向けて動き出すヤンキースの補強に注目していきたいです。

※クオリファイングオファー:一昨年から導入されたFA移籍に伴う旧所属球団への補償制度。規定額は毎年変動し、その年の年俸上位125選手の平均。球団は同オファーを提示することで、その選手が他球団へ移籍した場合、見返りにドラフト上位指名権を得ることができる。規定額での契約を拒否した場合や同オファーをしなかった場合も、旧所属球団と引き続き交渉できる。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。メンタル・フィジカルのバランスの良い選手が好み。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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