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岡田彰布コラム

清宮君の飛ばす能力は天性のものよ。順調に育っていけば、プロですぐに通用するはずや

 

高校野球100年の重みが詰まった素晴らしい大会


 夏の甲子園は8月20日、東海大相模高の全国制覇で幕を閉じた。この期間中、オレはテレビにクギ付け、ほとんどの試合を観戦したわ。とにかく高校野球100年の重みが詰まった大会になった。素晴らしい大会だった……と言うしかない。

 なぜ高校野球は、こうも感動的なのだろうか。オレも年を重ねたせいか、涙腺が弱くなって……。ひたむきにプレーするから、奇跡的なことが起きる。あきらめないから、最後の最後に劇的なことが起きる。しばらく忘れていた野球の神様の存在……。確かに神様はいるのではないか、と信じさせてくれるゲームが多かった。

 そんな中、まず感じたのは打高投低現象が顕著だったということか。好投手と評価されても、その投手を簡単に打ち崩すバッティング。打ち勝つチームが本当に多かった。間違いなく高校野球の打撃力は進歩している。それを痛感したよな。

 週べ編集担当から、大会終了を待って、岡田彰布が選ぶ好打者を……とテーマ設定された。となれば、やはり早実高の1年生やろな。オレも北陽高のとき、1年で甲子園に出場したけど、やはり落ち着いてプレーできんかったわ。それでも、それなりの結果を残したけど、この1年生は評判どおり、規格外のバッターかもしれんな。

 清宮幸太郎君のバッティングを初戦から見たけど、パワーは相当なものがあるし、遠くに飛ばす能力は、持って生まれたものやろうな。それ以上にオレが感じたことがある。それはバッティングの柔らかさなんよ。バットコントロールがうまいというか、崩されそうで崩れない。それは大きな体に似合わず、柔軟性を備えているからよ。

早実高の清宮君はそのパワーだけでなく、群を抜くバットコントロールのうまさも兼ね備えている。あの技術と柔軟性があれば、木のバットになっても問題なく対応できると感じたわ



 それでツボに来ればホームランが打てるし、崩されてもヒットにできる。1年生でこれだけのものを持っているとは、ホンマ、えげつないわな。まだ1年だし、これからどういうふうに成長していくか。そりゃ楽しみやし、順調に育っていけば、プロですぐに通用するはずや。あの柔らかさがあれば、木のバットでも大丈夫。オレはそう見ているよ。

 もうひとり、これも注目を集めた関東一高のオコエ瑠偉君ですわ。正直、バッティングはまだまだやと感じた。準々決勝で劇的な決勝2ランを放ったけど、打撃力という点においては、まだまだ課題は多い。しかし彼の魅力はなんといっても守備力、走力や。オレが語るまでもなく、甲子園でその魅力を存分に発揮した。大きなストライドで走り抜く脚力は、すぐにでもプロで戦力になるし、守りにしても、その脚力を利して、守備範囲が広い。それに打球に対する反応が素晴らしい。これだけでもとんでもない選手や。

 プロ志望のような報道があったけど、足が速くて、守りがしっかりしているということで、すぐに戦力になるのではないか。こういう選手を望んでいる球団も多いから、争奪戦必至ということになるやろね。

同じプロ野球人として心から称えたい2人の監督


 投手については、これも下馬評どおり、東海大相模高のサウスポー、小笠原慎之介君に魅力を感じたな。オレは甲子園で育ったような男やし、甲子園で左腕と数多く対戦してきた。そこで分かるのが、甲子園で左腕が150キロを出すのは本当に難しく、出ないものなんよ。プロでもなかなか出せないのに、小笠原君は簡単に記録した。それも球の伸び、キレがあり、さすが大会No.1投手と評されたものだけのことはある。これから先、どんな成長を遂げるか。楽しみで仕方ない逸材や。

 プロか大学かで迷うのだろうけど、オレの個人的考えでいくと、投手はプロに進む方がいいと考えている。肩の消耗度を考えても、高校からプロに行く方がいい。小笠原君もそうなれば、競合するだろうけど、ホンマ、プロで見てみたい投手や。

 まあ選手評はこれくらいにして、いまの高校野球を見てオレはほかのことを感じていたんよ。とにかく選手が楽しそうにプレーしている。ひたむきに、負ければ涙を流すけど、試合中は笑顔を見せ、実に楽しんでプレーしている。さらに言うなら、ベンチの前で水を飲んだり……。こんなこと、オレらの時代には考えられなかったわ。

 とにかく厳しい高校野球。これしかなかった。北陽高のときも、監督、先輩の言うことには、どんなことがあっても服従よ。水を飲むなんて考えられんし、笑いながらプレーしたら、そら怒られるわけよ。そういう時代に育ったから、いまの球児とのギャップは大きい。ただ、これも時代の流れなんやろな。そういう意味では高校野球の監督は大変やと、つくづく思うわな。

 オレは高校野球の監督にあこがれがあるか、やってみたいか……と問われたら、そこまでは考えられんけど、今年、甲子園に出場した中に元プロの監督が2人いた。九州国際大付高の楠城徹監督と宮崎日大高の榊原聡一郎監督。やっと高校野球もこういう時代になった……と感慨深い。特に榊原監督は現役を辞めたあと、広島で飲食店を経営していたと記憶している。チームは違ったし、年も違うけど、オレは現役のとき、榊原監督の店に行ったことがあるんよ。そういう経験をして、その後、母校の監督になり、甲子園に導く。大変な苦労があったに違いないし、こういう生き様に、ロマンというか、特別なものを感じるよな。

 厳しい環境でプロ生活を送ったわけよ。しかし、そういう生き方を選手に押しつけるには時代が違い過ぎる。オレもいまの高校生の気質は分からない。多分、大きな考え方の違いがあると思う。そこをどう調整し、どう指導していくか。プロ出身ならでは苦労があったはずだが、それを乗り越えて甲子園にやってきた。同じプロ野球人として、オレは2人の監督を称えたいし、大きな拍手を送りたいと思っている。(デイリースポーツ評論家)

PROFILE
おかだ・あきのぶ●1957年11月25日生まれ。大阪府出身。北陽高では1年夏の甲子園に出場し、早大では東京六大学リーグ歴代1位の打率(.379)と打点(81)をマーク。80年ドラフト1位で阪神に入団。1年目からレギュラーとして新人王を獲得。21年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成した85年は五番打者としてベストナイン、ゴールデングラブ賞。94年にオリックスへ移籍し、95年限りで現役引退。通算1639試合、打率.277、247本塁打、836打点。オリックスで2年間指導の後、98年に阪神復帰。二軍監督などを経て、04年から08年まで監督を務め、05年はリーグ優勝に導いた。09年から12年はオリックスの監督として指揮を執り、13年からは野球評論家として精力的に活動している。
岡田彰布のそらそうよ

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選手・監督してプロ野球で大きな輝きを放った岡田彰布の連載コラム。岡田節がプロ野球界に炸裂。

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