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岡田彰布コラム

阪神・原口を起用した首脳陣は見事!彼が正捕手として定着すればほかの選手たちの励みになるわな

 

アッと驚く新戦力、まさか原口が一軍に……


 早くもシーズンがスタートして2カ月。残りは100試合ほどになってきた。パ・リーグは戦前の予想どおり、ソフトバンクが圧倒的な力を示し、早くも独走気配にある。一方のセ・リーグは、こちらも予想どおりに混戦。DeNAが出遅れた感じではあったけど、少し盛り返し、より混戦度合いに拍車がかかっている。どこも決め手がない。走りそうと思われた巨人も、引き離すだけの力がない。オレが怖いぞ、と見ていた中日。四番・ビシエドがドンと座り、打線に軸ができた。これからも台風の目に変わりなし。怖いから超怖い存在になってきたわ。

 そういう中、今週はアッと驚く新戦力について書いてみることにした。いわゆる旬の選手、そしてあまり注目もされていなかった選手について書いてみたい。ということは……、そう、皆さん、気がつきますわな。阪神に現れた正捕手候補、原口文仁のことである。

 オレが阪神の監督を退いたのが2008年のオフ。原口はそのあとに阪神に入団しているから、彼のことはよく知らなかった。帝京高から入団するも、その後、腰を痛めて育成選手になった。その期間が3年……。故障に育成選手となれば、心が折れるよな。でも原口は耐えた。耐えて、そこから上を目指した。この心の持ちようが素晴らしい。あきらめない心の尊さというのか、彼に光が差し込んだ。

 この2月の沖縄キャンプ。原口は124番という大きな背番号で一軍キャンプに呼ばれた。オレもデイリースポーツの評論で現地に行っていたけど、バッティングのよさは目についた。しかし、捕手というポジションだし、すぐに一軍なんてことは……と正直、そう思っていた。

 ところが金本知憲監督は原口を呼んだ。育成から支配下登録して、さらに一軍登録である。まさか、まさかのサクセスストーリーとはこのことや。124番から94番に背番号が変わり、あれよ、あれよという間に、先発出場を続けるまでになった。

 阪神の若手登用の波はおさまらない。金本監督の考えどおり、チームは動いている。ここまで思い切ったことはなかなかできるものではない。原口もその波に乗ったわけだが、さらにいえばチーム事情も彼に幸いしたわな。それは決め手のない捕手陣という事情だ。岡崎太一梅野隆太郎で臨んだ今季。梅野に成長力は感じられず、岡崎にしても精いっぱいのプレーで、伸びしろはない。そこから小宮山慎二清水誉といった捕手を一軍に上げたが、ピリッとしない。担当の矢野耀大コーチの進言があったようだが、そこで浮上したのが原口の名前。彼にとってビッグチャンスが目の前にやってきた……ということやった。

 彼らにとって、チャンスは多くない。それは1度きりかもしれない。そのチャンスをつかむか、それとも手放すか……。ここが分岐点よ。人生の分かれ目よ。このチャンスを逃し、そのまま埋もれていった選手は多い。確率にしたら極めて低い成功率だが、原口はピンポイントで、これをつかんだ。

 これまで育成選手から一軍で成功を収めた選手はいるけど、支配下から育成になり、故障を克服して、再び支配下、そして、さらにジャンプして一軍、そしてスタメン……というのは珍しい。感動的なストーリーやと思うし、起用した首脳陣も見事なものやと思うよね。

育成から支配下、そして即一軍、スタメンマスク、最後には五番というクリーンアップまで任されるようになった原口。彼のサクセスストーリーはほかの選手を勇気づけるはずや


ドラフト順位は関係ないそれが監督の目線や


 5月11日、甲子園での巨人戦。相手先発は左腕の田口麗斗。そこで阪神の先発メンバーを見ると、原口はなんと五番での起用ではないか。アッという間のクリーンアップでの登場。甲子園に驚きの声が渦巻いたけど、何も勢いだけの起用ではない。オレはこれもあり……と思ったわ。

 とにかく原口のよさはバッティングよ。バッティングフォームがドシッとして、ブレがない。とにかく自然体なんよな。スイングスピードがあるから速い球にも力負けしないし、変化球にも対応できる。さらにストライク、ボールの見極めができる。際どいボールをファウルにできるし、バットが止まる。こういう一連の動きが自然にできている。ここまでのキャリアを考えれば、これは相当なことなんよ。これを続けていけば、オレは打つほうでは、かなりやれる、と判断しているけど、問題は守りになるな。

 捕手は結果で判断されるポジションで、すべては結果論でジャッジされる。惜しかった……がないポジションだけに、原口はすべて試合の結果が求められることになる。

 経験がほとんどないし、今後は苦労し、悩む時間が増えると思う。これを乗り越えないとレギュラーになれないわけだから、戦いながら捕手としての力をつけていくしかない。でもな、これまで苦労してきたやないか。それに比べれば、日の当たるところでの苦労よ。必ず超えられる。いや超えてもらいたいわな。こういう選手が頑張ることが、どれだけ今後の選手に好影響を与えるか。彼のひたむきさ、必死さを見ていて、ホンマ、応援したくなる選手よ。

 こんな原口だけでなく、例えばドラフト下位指名でも新しい戦力になっている選手が、今年は目立つ。阪神のドラフト6位の板山(祐太郎)、DeNAドラフト4位の戸柱恭孝、中日ドラフト4位の福敬登、そして巨人の育成から支配下になり一軍で先発した長谷川(潤)。これらの選手の働きは、新鮮で、強い刺激をチームに与えている。

 オレは監督時代、ドラフト1位も6位も、そうは意識しなかったわな。プロに入った以上、スタートラインは同じやし、そこに光るものがあれば、下位指名の選手でも一軍で登用しようと思ったわ。要するにドラフト順位は関係ない。いいものはいい。監督目線とはそういうものなんよね。(デイリースポーツ評論家)

PROFILE
おかだ・あきのぶ●1957年11月25日生まれ。大阪府出身。北陽高では1年夏の甲子園に出場し、早大では東京六大学リーグ歴代1位の打率(.379)と打点(81)をマーク。80年ドラフト1位で阪神に入団。1年目からレギュラーとして新人王を獲得。21年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成した85年は五番打者としてベストナイン、ゴールデングラブ賞。94年にオリックスへ移籍し、95年限りで現役引退。通算1639試合、打率.277、247本塁打、836打点。オリックスで2年間指導の後、98年に阪神復帰。二軍監督などを経て、04年から08年まで監督を務め、05年はリーグ優勝に導いた。09年から12年はオリックスの監督として指揮を執り、13年からは野球評論家として精力的に活動している。
岡田彰布のそらそうよ

岡田彰布のそらそうよ

選手・監督してプロ野球で大きな輝きを放った岡田彰布の連載コラム。岡田節がプロ野球界に炸裂。

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