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ヤクルト6位・渡邉大樹 名将を感服させた野球センス

レギュラーとして全試合出場を将来の目標に掲げる渡邉大樹選手。長打力と俊足が魅力の高卒ルーキーだ。

 

野球センスの高さを感じさせた練習試合での一打


 東京ヤクルトからドラフト6位指名を受けた渡邉大樹(専大松戸)。専大松戸を率いる持丸修一監督曰く、いつも平常心で、あまり感情を表に出すようなことはないのだという。そんな渡邉の「闘志」が前面に出る姿を、初めて指揮官が目にしたのは今夏の千葉大会予選の決勝だった。

 決勝戦の相手は、春夏合わせて11度の甲子園出場を誇る習志野。翻って専大松戸は、一度も甲子園に出場したことはなく、予選の決勝に進んだのも前年が初めてだった。そんな経験の差が出たのか、中盤まで主導権を握ったのは習志野だった。7回表を終えた時点で習志野が3-0とリードしていた。

 しかし、専大松戸のベンチに焦りは全くなかったという。
「いつかチャンスが来る」
 指揮官も選手も、そう信じていた。

 そして、そのチャンスが訪れたのは7回裏。この回、1死二、三塁から2点タイムリーが出て1点差とし、さらに送りバントでランナーを進めて2死二塁で回ってきたのが、渡邉だった。

 渡邉は自信を持って、打席に入ったという。
「打てる気しかしなかったですね。落ち着いてはいましたが、こういうチャンスで打席が回ってきたんだから、3年間努力してきたことをすべて出そう、といつも以上に気持ちが入っていました」

 果たして、アウトコースのストレートを迷うことなく振り抜くと、あわやホームランかというライトオーバーの同点三塁打に。この後、四死球で満塁となり、千葉ロッテからドラフト5位指名の原嵩がランニングホームラン。この回一気に7点を挙げ、流れを引き寄せた専大松戸が、甲子園の切符を掴んだ。

 実は7回裏の逆転劇には、伏線があった。7回表、習志野は痛恨のミスを犯していたのだ。この回、習志野は1点を挙げて、なおも1死二、三塁と追加点のチャンスだったが、三塁走者が飛び出し、三本間でタッチアウト。さらに三塁を狙った二塁走者もアウトとなり、チャンスを自分たちで潰したのだ。これが、それまで習志野にあった流れを専大松戸へと向かわせてしまったのである。

 渡邉は、こう振り返る。
「自分たちで流れを手放すようなプレーはしてはいけないということを学んだ試合でもありました。負けている時は最後まで諦めずに、勝っている時は一層気を引き締めることが大事だとうことを改めて感じました」

 ひとつのミスが命取りになる――。喜びに沸く自分たちとは対照的に、うなだれる習志野ベンチの光景は、渡邉に野球の怖さを感じさせるには十分だった。

 この試合には、もうひとつのエピソードが隠されている。同点打を放った7回裏の打席の際、渡邉の元に持丸監督の伝令が届けられていた。
「無理して右に引っ張ろうとするな。とにかく思い切って行け!」

 普段はあまり伝令を走らせないという持丸監督。だが、この時はどうしても渡邉に伝えたかったという。その理由は、数カ月前の練習試合にあった。

 その日、渡邉は2打席目にホームランを放っている。ところが、ダイヤモンドを一周してベンチに戻ってくるや否や、持丸監督にこっぴどく叱られたのだ。

「この試合、監督さんからは真っすぐを打て、と言われていたんです。それで1打席目は真っすぐをヒットにしました。でも、2打席目、1球目にインハイのスライダーが来て、それを打ってしまったんです」

 ちょうどその時、チーム状態はあまり良くなく、持丸監督は「まずは真っすぐを打とう。そうしないと、勝ちには結びつかない」と話したばかりだったのだ。目先の結果ではなく、過程を重要視する持丸監督にはチームワークを乱す行為とみなされたのである。

 しかし実は叱りながらも、持丸監督は渡邉の野球センスに、改めて感服していたという。
「言われたことだけをやっている選手では、プロに行くことはできません。結果がすべてのプロでは、監督にいくら言われても、結局は自分で判断して結果を出すことの方が大事ですからね。その点、渡邉はこっちが言わなくても自分で判断してスライダーを打ちにいった。『あぁ、こういうこともできる選手なんだな』と思いましたよ。プロ向きだなと」

 この時のことが、持丸監督の頭には常にあったようだ。そのため、前述した決勝で伝令を送ったのは、「チームバッティングをしようとするのではないか」と懸念し、わざわざ伝令を送って「自由に打っていいんだぞ」ということを知らせたのだ。

 渡邉本人はというと、伝令の内容をほとんど覚えていない。「もちろん、ちゃんと聞いてはいたんです」と渡邉。それだけ集中していたということだろう。結果がそのことを十分に物語っている。

 持丸監督が感じた野球センスは、果たしてプロでどう磨かれていくのか。まだ18歳。心身ともに、伸びしろは十分だ。まずはしっかりと体を鍛え、2、3年後の一軍入りを目指す。

取材・文=斎藤寿子 写真=遠藤武
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