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オリックス育成の大田阿斗里 元指揮官も認める潜在能力は開花するのか

テスト生としてオリックスのキャンプに参加していた大田阿斗里。今後は支配下選手登録を目指す

 

昨年末にはパドレスとマイナー契約直前まで進んだが…


 一度は土俵を割った男が、再挑戦のチャンスをつかんだ。またユニフォームに袖を通し、マウンドに立てる喜び。大田阿斗里に救いの手を差し出したのはオリックスだった。

 今年2月10日。テスト生として宮崎キャンプに参加していた右腕について、育成選手として獲得することを発表した。瀬戸山隆三球団本部長は「直球のスピードも力もある。変化球も豊富。上(1軍)の戦力になれる可能性を感じた」と説明。当面の目標になる支配下選手登録も、決して遠くはないことを示唆した。

 長く、苦しい戦いだった。プロ8年目の昨季は1軍登板なし。2軍でも24試合で防御率5.96と全く振るわなかった。シーズン終了後にはDeNAから戦力外通告。「まだまだ体は動くし、投げたい気持ちが強いです」と現役続行を決め、横須賀・ベイスターズ球場を中心に自主トレーニングをスタートさせた。11月の12球団合同トライアウトに参加。ここでまず存在感を発揮してみせた。シート打撃形式で打者3人と対戦し、無安打2奪三振と好投。最速は149キロを計測した。

 国内外の球団が視察し、最初にアプローチしたのが米大リーグ・レッドソックス。後日、大田1人を対象にした入団テストを実施したいと連絡を受けた。マイナー契約を視野に入れた打診だったが、最後の最後でアピールに失敗。振り出しに戻っても、心が折れることはなかった。

 今度は高知市内で行われたパドレスのトライアウトを受験。伸びしろのあるパワーピッチャーとして高評価を受けることになった。同時期にはパドレスとマイナー契約を結ぶと報道。ようやく吉報が届いたと思われた。

 かつてメジャー志向を明かしたこともあり、大田にとっては願ってもないビッグチャンス。詳細は公表されていないが、何らかの理由で破談になってしまった。肩や肘といった体調面は万全だったはず。DeNA時代のチームメートにも「近々、いい報告ができそうです」と漏らしていただけに、さすがにショックは隠せなかっただろう。大きな不安を抱えたまま新たな年を迎え、それでも可能性を信じてトレーニングを継続。すると1月には、オリックスから入団テストのオファーが届いた。

 ほっともっと神戸のブルペンで見せた投球内容が評価され、オリックスがキャンプでのテスト延長を要望した。好調をキープし、2月9日の紅白戦では2回を無失点に抑えた。もともと、最速151キロの速球とスライダー、フォークは十分に1軍レベル。2013年には中継ぎの一角として38試合に登板している。同年6月22日の阪神戦(横浜)でプロ初勝利。「今日からやっとプロ野球選手になれたと思います。プロ野球選手になった大田を、よろしくお願いします」と、本拠地のお立ち台で頭を下げた姿は印象的だった。

 帝京高のエースとして名を上げたのが2007年だった。センバツ1回戦の佐賀・小城戦で1失点完投勝利。史上2位タイ20奪三振と快投を演じた。センバツでの20Kは、73年の作新学院・江川卓以来となる快挙。プロ注目選手として注目を集め、この年の高校生ドラフト3巡目で横浜(現DeNA)に入団した。同期は日本ハム・中田やヤクルト由規。将来を嘱望されながら、なかなか芽が出なかった。ルーキーイヤーの08年から勝ち星なしの10連敗と低迷。あと1敗でプロ野球ワースト記録に並ぶところだった。

目立った活躍は出来なかったDeNA時代。しかしそのポテンシャルの高さは首脳陣も認めていた



 前述の13年に実績をつくり、大器の片りんは確かにみせた。しかし、翌14年の登板は3試合。下降線をたどった。その一方、ファームでは「1球1球を見れば、素晴らしい球を投げる」と言われていたことも事実。

 昨シーズンまで指揮した中畑清前監督は、残念そうに不振の理由を分析した。「2013年は、ここ一番でいい仕事をしてくれた。プロ初勝利の阪神戦なんて、2アウト満塁のピンチをしのいだんだから。ただ、彼の場合は本当に“ここ”なんだよな…」。右手で心臓部分を触り、ゆっくりと言葉をつないでいった。

「特に去年は、真っすぐの球威がなかった。勢いのある直球があってのスライダー。フォークも生きてこない。ゲームによって良い悪いの波がありすぎた。そうなると、使いにくくなる。安心して1軍で使えるというレベルにこなかったのも正直なところだな」

 まだ26歳と若く、潜在能力の高さは誰もが認めるところ。今回の逆境を乗り越えたことでメンタル面は鍛えられただろうし、中畑前監督は「テクニックに頼る投手じゃない。環境が変わることで、ガラッと見違える可能性はある。一緒に戦った仲間。阿斗里には頑張ってもらいたい。期待してるよ」と温かいメッセージを送った。

 再出発の背番号は129。不屈の精神を宿し、スケールアップした姿で表舞台に戻ってくる。

PROFILE
おおた・あとり●1989年8月12日生まれ。沖縄県出身。190cm95kg。右投右打。帝京高から07年高校生ドラフト3巡目で横浜(現DeNA)に入団。通算成績(7年)は68試合2勝14敗防御率5.37。2015年の年棒は1250万円(推定)。

写真=BBM
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