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密着!2017WBC侍ジャパン戦記

チームリーダー離脱で結束した侍ジャパン

 

チームからの離脱を発表した嶋。その無念さは察するに余りある(写真=BBM)


 無念がにじむ。沈痛な表情からも、絞り出した言葉からも。

 3月4日、嶋基宏が右ふくらはぎ痛のため、侍ジャパンを離脱した。同日午前10時、日本代表の公式スーツを身にまとい、大阪市内の日本代表宿舎で取材に応じた嶋は、一言ひとこと、丁寧に言葉を選びながらその胸中を告白している。

「一番はやはり悔しいです。試合に出ろと言われたら、出ることはできます。ただ、出るからには100%、120%できないと迷惑がかかってしまう。中途半端なパフォーマンスでプレーをして、それが敗戦につながってしまったら……。今の状態では無理だと判断しました」

 2013年の侍ジャパン常設化と、それに伴う小久保裕紀監督就任時から代表チームのキャプテン。14年の日米野球も、15年のプレミア12も、リーダーの嶋を中心に侍ジャパンは戦い、寄せ集めの集団は次第に結束したチームへと成長を遂げた。2月の楽天キャンプ期間中に今回の箇所を痛めたが、「今の状態でも必要な選手。可能性があるなら行けるところまで行こう」と指揮官が回復を待ったのも、その求心力を必要としたためだ。

 辞退は嶋本人が小久保監督へ申し出たことで決まったが、仮に申告がなかったとしたら、戦力上、第3の捕手を失うことになっても、指揮官は嶋を残し、結束を保つ道を選んでいたに違いない。一方の嶋は、逆にプレーできない自分が外れることで、戦力の補充を望み、誰よりも思いの詰まったチームを守る道を選んだ。どちらの判断も侍ジャパンを思うがゆえのものだ。

嶋に代わり緊急招集された炭谷。国際試合経験は豊富なだけに心配はない(15年のプレミア12より。写真=Getty Images)


 救いは代替出場の炭谷銀仁朗が小久保ジャパン立ち上げ時のメンバーでもあり、国際経験豊富(13年WBC、プレミア12にも出場)な捕手である点。代替出場が正式発表される前夜、嶋から「直前に申し訳ない」とメールを受けた炭谷は、「全然大丈夫です」と返信しており、合流後も「違和感がない。なじんでいる」との周囲の評価を、即試合となった5日の強化試合(オリックス戦)でも証明している。3対3の7回からマスクをかぶると、千賀滉大宮西尚生秋吉亮を好リード。チームの2試合ぶりとなる逆転勝利は、炭谷のリズムの良い熟練のリードと無関係ではないだろう。

 嶋離脱は大会開幕を3日後に控えたアクシデントであったが、図らずも「嶋のために」で再びチームは結束を高めている。加えて炭谷の緊急招集は経験の浅い捕手陣にあっては大補強。逆境が、大会を目前に控えたチームを一歩、前進させた。

文=坂本匠
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