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広島・加藤拓也の“塩対応”はプロフェッショナルの姿

 

9回一死までノーヒットノーランの快投でプロ初勝利を挙げた加藤(右)。緒方監督と写真に納まり、はにかんだ笑顔を見せた



“塩対応”も十分、想定内だった。昨年8月、慶大合宿所のミーティングルームで単独インタビューに応じた加藤拓也は自ら、こう切り出している。

「メディア受けは悪いですよね」

 自覚しているということは、悪気はない。この言葉には“思いやり”が込められている。選手によってさまざまだが、球場での取材と個別インタビューでは、その受け答えがまったく異なるケースがある。

 加藤はそれに、当てはまると言っていい。つまり、究極の“恥ずかしがり屋”なのである。

 無理を承知。ポーズ写真で笑顔を要望したが案の定「自分、できないです……」と鉄仮面を崩さない。ちょうど近くにいた慶應義塾高時代からの同級生・沓掛祥和(現トヨタ自動車)に聞けば、「加藤ですか? それは、無理です(笑)」と切り返される始末だった。

 ならば、無表情を生かす道を模索する。それが編集者としての仕事だ。撮影を終え、さあ、切り替えてインタビュー。ヒザを突き合わせてじっくり質疑応答を続けると、真面目な性格がにじみ出てくる。説明するまでもなく不器用なまでに、真っすぐなのだ。「打てるものなら打ってみろ!!」。豪快な投球フォームと同様、加藤の人間像が一言一句に浮かび上がる。

 昨秋の東大戦でノーヒットノーランを達成しても、1位で広島から指名されたドラフト会議当日も、心の底から笑みを見せることはなかった。スイッチが入ると、周りと一線を引いてしまうが、決して悪気はない。

 広島入団以降も十分、想像できた“素っ気なさ”。新人らしからぬ言動が話題となったが、それが加藤拓也の個性である。

 大学4年秋のシーズン前、新調したグラブには「ブレない」と刺繍していた。プロ入り後も、そのポリシーは不変だ。プロデビュー戦となった4月7日のヤクルト戦(マツダ広島)では9回一死まで無安打投球を続けた。惜しくもノーヒットノーランは逃したが、初登板初勝利で広島・緒方孝市監督との記念撮影での表情は、作り笑顔ではなかった。ようやく、自然と出た“素顔”に映った。

 華々しい船出を飾り、今後はさらに騒がれる立場となるが、流される心配はない。勝つことだけに、執念を燃やす加藤。世間では一般的に“神対応”がもてはやされるが、“塩対応”がいても、良いではないか。

 それが、加藤が持つプロフェッショナルの姿。周囲に言われるがまま、かえって無理をして人格を変えることで、ストレスになるのが一番、怖い。メディアもここは親身に理解して、最善の露出方法を考えていくべきだ。短い言葉の中に、感情が込められていると受け止めればいいのである。

文=岡本朋祐 写真=湯浅芳昭
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