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沢村栄治「栄光の伝説」/生誕100年記念企画その6

【沢村栄治 栄光の伝説(6)】決戦前夜

 

34年11月17日神宮でホームラン競争に参加したベーブ・ルース。後方左はルー・ゲーリッグ


 京都商を中退した沢村栄治が入った千葉・谷津遊園内の全日本合宿所「楽天府」には、チームの中でも関西の大学出身者、社会人出身者のみがいた。東京六大学出身選手はみな日本橋の高級旅館からの通いだ。谷津で練習だけして、夜は宴会。映画で言えば、いわばスターが東京六大学、脇役の大部屋が楽天府という扱いか。実際に当時の野球界は、東京六大学、特に早大、慶大中心に動いており、早慶のトップ選手は、いまのアイドル以上の人気があったという。

 そのスターたちの目の色を変えさせたのが、17歳の沢村栄治だった。彼らの打撃練習でマウンドに立ったのだが、みな沢村のストレートにまともに当たらない。谷津遊園合宿組は、ひそかに喝采を送り、野球評論家の大和球士氏は、「大袈裟にいえば革命であった」と著作で描写している。

 それはさておき。ヤンキースの誇る世界のホームラン王、ベーブ・ルースら全米選抜チームがバンクーバーからハワイ・ホノルル経由で横浜港に着いたのが、1934年11月2日だ。そこから車で銀座・帝国ホテルに向かう途中は、まるで優勝パレードのようなにぎわいとなったという。

 迎えた日米決戦。第1戦目、東京倶楽部との第1戦が17対1、以後は全日本との試合で第2戦5対1(神宮)、第3戦5対2(函館)、第4戦7対0(仙台)、第5戦10対0(神宮)、第6戦13対2(神宮)、第7戦14対0(富山)、第8戦15対6(神宮)、第9戦21対4(横浜)と全米選抜は大差で連戦連勝を飾り、いずれの球場も満員盛況。全米選抜チームは、日本中に野球フィーバーを巻き起こした。

 迎えた11月20日の10戦目が静岡・草薙球場での試合だ。全日本の先発は沢村。これが3試合目の登板で、初登板となった5戦目は先発でメッタ打ちを食らい、2試合目となった7戦目の試合はリリーフで登場し、まずまずのピッチングを見せた。

 それでも、草薙での試合前、誰もが、そして沢村自身も、これが日本球界に燦然と輝くビッグゲームになるとは思わなかった……。(続く)

写真=BBM
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