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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

引退会見でのロッテ・井口資仁の変わらぬ姿と視点

 

井口は常にファンの視点に立ち、ファンに視線を向けている


 変わらぬ笑顔を浮かべていた。人によってはまくし立てるように聞こえるかもしれない、いつもの少し早口な口調で、次々と自らの思いを言葉にしていく。時折、キュッと口元を引き締める瞬間にだけ、決意の強さが見て取れた。

 6月20日、急きょアナウンスされた会見で、井口資仁が今季限りで現役を退くことを発表した。自分の中では昨年オフから決めていたことだというのだから、気負うことなく、いつもどおりの姿と語り口だったことに不思議はない。

『週刊ベースボール』の特集企画で井口にインタビューをしたのは、ちょうど1カ月前のことだ。テーマは「球場」。MLBを含め、数多のボールパークを肌で知る男。現在のNPBで球場企画にこれほど打ってつけの存在はいない。そのときも変わらぬ笑顔で、少し早口に、次々と質問に答えてくれた。井口に現役として残された時間が少ないことは分かっていたが、すでに今季限りでの引退を決意していたとは知る由もなかった。

 今思えば、「なるほどな」と感じることがある。思い出の球場として真っ先に挙げてくれたのはMLBで最初にプレーしたホワイトソックスの本拠地、USセルラー・フィールド(現ギャランティードレイト・フィールド)。そこから話はMLBの球場と対比させるように、NPBの球場のあり方へと流れていったのだが、その中で、こちらがドキリとするほど強烈な言葉、提言が幾度も口をついた。

 どうすればファンがより楽しめる球場になるのか、よりプレーの臨場感を味わってもらえるのか。そのためには球団が、引いて言えば日本球界が何をするべきなのか。井口の視点は常にファンの側に立っていた。そして、現役を退くことを決めていたからこそ、その思いがより強く、言葉としてこぼれ落ちたのかもしれない。

 引退発表がシーズン半ばという異例のタイミングとなったのも、その思いの延長にあるものだろう。「(ホームだけでなく)地方でもいろいろなファンに、自分の(最後の)姿を見てもらいたかった」。2014年のデレク・ジーター(元ヤンキース)、昨季のデビッド・オーティズ(元レッドソックスほか)が、やはり開幕前にシーズン限りでの引退を表明し、最後の雄姿を見せることで各地のファンを喜ばせたのは記憶に新しい。

「思い出を振り返るのは最後にします。今は残りのシーズンですべてを出し切ることしか考えていない」。その言葉に偽りはないだろう。同時に、これまで以上に井口の視線はファンに向けられている。

 引退後、井口がどのような立場で球界と関わっていくのか、現時点では分からない。それでも、その視点と視線が変わらぬ限り、球界により良い影響をもたらしてくれるのは間違いないはずだ。そのことに期待しつつ、井口のプレーを楽しむことができる残り少ない時間を満喫したい。

文=杉浦多夢 写真=内田孝治
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