嫌な雰囲気はブルペンカーに乗ってマウンドに向かう途中から漂っていた。
日本国内で初めて160キロのカベを突破したマーク・クルーン(元横浜、巨人)が始球式に訪れたのは、6月16日から18日の
DeNA対
オリックスの3連戦(横浜)。レジェンド対決としてオリックスOBとの「1打席対決」に登板するため7年ぶりの来日を果たした。
現役時代には最速162キロをマークした剛腕が果たしてどんなスピードボールを投げ込むのか、注目が集まった対決初日。元近鉄の
吉岡雄二氏(現BCL富山監督)を打席に迎えて投じた1球目は、山なりの71キロ。2球目も同じようなボールで球速表示はなし。吉岡氏は困惑気味にセンター前に弾き返した。
来日前には「肩は休養十分です!」とコメントを出していただけに、スタジアム全体が微妙な空気に包まれたのは当然だった。イベント後に週刊ベースボールはインタビューの約束をしており、取材の準備をしているとクルーンはTシャツ姿で一塁側ベンチへ消えていった。
ここでクルーンの名誉のために書いておくと、彼は決してヤル気がなかったわけではない。肩を痛めてしまい、思うようなボールを投げることができなかったのだ。かつての速球王はヤル満々に試合開始の4時間前にスタジアムに入ると、外野で入念にキャッチボールを行った。しかし、マウンドに上がる直前にブルペンで右肩に違和感を覚え、全力投球ができなくなってしまった。始球式はあと2日あるため、ベンチ裏でアイシングをほどこしていたのだった。
インタビューの席に着いたクルーン氏は言葉少なげに語った。
「速球というのはリスクを背負うもの。自分のケガがひどくなってもしょうがないし、相手もケガをさせてもしょうがない……」とちょっと落ち込んでいるように見えた。
それでも「7年ぶりに日本に帰ってきて、当時と変わらずスタンドからの温かい声援は本当にうれしかった」と昔を懐かしむと、目の前でプレーする古巣ベイスターズの選手の動きを食い入るように見つめた。なかでもアメリカにもうわさが届いているという
筒香嘉智の打席に熱視線を送っていた。
結局、肩は残り2試合でも復調せず、本人にとっては不本意な結果となってしまった。しかし、最後には「肩の調子が万全ではなかったものの3日間マウンドに立たせてもらい、ファンのみなさんに感謝します」と笑顔で横浜スタジアムを後にした。
2年前は
ポンセ、昨年はブラッグスが登場するなどベイスターズの伝説の助っ人たちが登場してきた同イベント。2012年開幕前には「マシンガン打線」の中軸、
ロバート・ローズがゲストで登場している。となれば、来年は
パチョレックあたりの来日が実現しそう!?
文=滝川和臣 写真=長尾亜紀