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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

楽天新人左腕は言う。「高梨雄平という投手は1回、死んでいる」

 

貴重な中継ぎ左腕として、首位を走るチームで勝利に貢献している高梨


 首位を走る楽天のブルペンを支える一人に、ドラフト9位ルーキーの高梨雄平がいる。ルーキー一番乗りで白星を手にしながら、二軍落ちも経験。それでも再び一軍の緊迫した場面で登板を重ね、今やチームに欠かせぬ存在へと成長した。穏やかな性格とさわやかな笑顔で、年下のチームメートからも慕われている。

 そんな高梨にはルーキーに見られる貪欲さがあまり見えない。

「先発や抑えをやりたいという思いはありません。すみません。ギラギラしてなくて」と苦笑い。

「できることは限られているので。今は自分が登板したときにゼロに抑えたい。ホールドのつく場面、同点や競っている場面で投げさせてもらっているのはありがたいですけど、でも大差の試合でも、負けている場面でも一軍で投げることが大事だと思うので」

 遠い先のビジョンを思い描くのではなく、目の前のことに全力を注ぐ。その考え方に至るには、ある転機が関係している。

「(投げ方を)変えた時点で、欲というか、いろんなものは全部とっぱらわれましたね」

 社会人2年目の夏、高梨は腕を下げた。

「そこで1回、高梨雄平というピッチャーは死んでいるので」

 強豪・JX-ENEOSで結果が残せず、生きる道を探した。それがサイドスローへの転向だったのだ。早大時代には完全試合も果たしている男が、自身が積み上げてきたものを壊し、ゼロからのリスタートを図った。

「僕は上投げのゴリゴリ力投しているピッチャーから横投げに変えている。そこで1回自分というものを完全に折っているので。そんなにこだわりとかはないです。抑えるために何が必要か。それだけを考えています」

 中継ぎとして今できることだけを考え、無心で腕を振る。

「ホールド数や何試合投げたかが大事になってくるので、防御率とか変動する数字じゃなくて、積み重ねる数字を大事にしたいなと思っています」

 笑顔の裏に秘められた挫折と再生。左のサイドスロー・高梨の物語はまだ始まったばかりだ。ここから、輝かしい功績を再び積み上げていく。

文=阿部ちはる 写真=湯浅芳昭
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