スタンドから見る光景に特別な感情
2年前の夏、三番・清宮(右)、四番・加藤で甲子園ベスト4へ進出
2年前の甲子園出場記念タオルを首に、カワイイ後輩へ熱視線を送った。
2015年夏、4強へ進出した早実で主将を務めた
加藤雅樹(早大2年)が7月25日に行われた西東京大会準々決勝(対日本学園高)を観戦した。東京六大学リーグでは今春から四番を務め、初の首位打者を獲得。慣れ親しんだ神宮だが、スタンドから見る光景に特別な感情が芽生えたという。
「早実への声援がすごい。当時を思えば、本当、感謝の言葉しかありません」
早実は5対1で勝利して4強進出。この試合から校歌斉唱があるが、加藤も思わず歌詞を口ずさんでいた。
「懐かしいですし、うらやましいですね」
ひた向きにプレーする姿。背番号3の主将をまるで、弟のように見ていた。卒業後も2学年後輩の
清宮幸太郎、そして母校を気にかけ、毎大会1回は応援に来ている。
清宮は高校通算106本塁打で、歴代1位とされる神港学園・
山本大貴(元JR西日本)の記録にあと1本に迫っている。加藤は通算47本塁打。「恥ずかしいですね」と照れ笑いを浮かべたが、実は最高の財産を残している。
つなぎの象徴となった先輩の姿を見て
加藤(左)の隣で声を出す1年の清宮。その姿勢は今も変わらない
加藤は3年夏を迎えるまでに46本塁打。5月31日、新潟での招待試合を最後に、アーチは途絶えていた。そして、8月15日、東海大甲府との3回戦で三番・清宮が甲子園初アーチを放った直後に四番・加藤も豪快に右越えの本塁打。“KKコンビ”による最初で最後の競演だった。その当時のコメントがよみがえってきた。しばらくホームランから遠ざかっていた要因を聞かれた返答である。
「(夏を前に)全体を意識し始めて、自己中心的な打撃をしてはダメだと思った。夏大(西東京)へ向けて、プライドを捨ててではないですが、つなぎの象徴になろうと」
2年前に甲子園で語った加藤先輩の“金言”が届いたのか、清宮は準々決勝後、こんなエピソードを明かしている。この日は待望の本塁打は出ず、2打数1安打だった。
「(2年前の夏の)甲子園に出場したとき(西東京大会決勝)の映像が(早実クラブハウスで)流れていたんですが、インタビューで『後ろに』『後ろに』という言葉を繰り返していた。(甲子園に)出るときは、それが必要なのかな、と」
この日は冷静に2つの四球を選び、キャプテンはチームの勝利のためにプレー。負ければ終わりの夏。勝つために必要な、つなぎのスタイルを再確認したのである。
清宮は1年夏、仙台育英との準決勝で敗退後、「生まれ変わって野球ができるなら、この上級生の皆さんと野球がやりたい」と大粒の涙を流し、加藤ら3年生に感謝の言葉を残した。
この発言について、あらためて加藤に「何を思ったか」を聞いた。
「ふつうにうれしかった。そう思ってもらえる先輩になれて良かった。今の2年生以下も『清宮さんと一緒にプレーできて良かった』と思っているはずです。すごいプレッシャーがあると思いますが、一戦一戦、頑張ってほしい」
清宮は試合中に一切、声を切らさない。献身的に動くカワイイ後輩の背中を、先輩は一塁スタンドから優しい視線で見届けていた。
文=岡本朋祐 写真=BBM