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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

北海道移転後1000勝を呼び込んだ 日本ハム・矢野謙次のバットにまつわる深イイ話

 

自身の“相棒”であるバットについて熱っぽく語る矢野


 日本ハムの北海道移転後、通算1000勝のメモリアルを飾った7月26日のロッテ戦(帯広)。ヒーローになったのはプロ15年目の矢野謙次だった。1点ビハインドの7回一死二、三塁のチャンスに代打で出場。研ぎ澄まされた感覚と勝負強さで、ロッテ・唐川侑己のカーブを左前に運んでチームの逆転勝利の立役者となった。

 近年はスタメンで出ることはほとんどなく「代打の切り札」として存在感を示す大ベテラン。それだけに商売道具であるバットへのこだわりも人一倍。アシックス社製のバットを巨人時代から愛用しているが、そのバットはいつもピカピカに磨かれ、試合後も1本、1本チェックしながら大事そうにバットケースにしまう姿を何度も見かけたことがある。

 だがこの背景には、若き日の知られざる苦い経験があった──。

 それは矢野がまだ3年目のとき。思うような結果を残せない自分に苛立ち、ある試合でバットや道具に八つ当たり。それを見ていた当時の巨人一軍外野守備コーチだった弘田澄男氏が激高し、矢野の道具をすべてゴミ箱に捨てた。矢野はすぐさま「なんでこんなことをするんですか」と食い下がったが、そこで弘田コーチから言われたのが「お前を守ってくれるのは道具じゃないのか! そんな風に扱われた道具がお前に成功なんて与えてくれると思うのか」。

 ハッとした。コーチの言葉が胸の奥底にズシンときた。それまでの自身の行動を振り返り、その日から矢野の中での意識が変わっていったという。

 道具を大切にできない選手は、一流にはなれない。いつも輝く矢野のバットの秘密や裏側を掘り下げていくと、若き日の自身の弱さ、そこにある人間ドラマ、さらには道具も選手と一緒にグラウンドで戦っている文字どおりの“相棒”なんだということが分かる。

 それだけに最近の試合でチームメートの中田翔レアードがバットを折ったり、バットで壁を叩いたシーンがあったが、矢野はベンチでどんな思いで見ていたのだろうか。球場でゆっくり話を聞く機会があったら、そのあたりのことや深いバット談義をまたいつか聞いてみたい。

文=松井進作 写真=松岡昌平
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