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カットの延長がホームラン? 日本ハム・中島卓也が開いた新境地

 

7月30日のソフトバンク戦でプロ初アーチを放った日本ハム中島卓也


 コンパクトで鋭いスイングから放たれたライナーがヤフオクドームの右翼席(ホームランテラス)に弾む。7月30日、敵地でのソフトバンク戦で、日本ハムの中島卓也がプロ入り第1号本塁打を放った。通算2287打席目、高卒9年目での待望の一発に、「びっくりしましたけど、(ホームランって)ああいう感覚なんですね」と笑顔で振りかえるコメントが実に初々しい。

 中島卓といえば、2015年に両リーグトップのファウル数を記録するなど、カット打法が代名詞。際どいコースは執拗にファウルで逃げ、例えばその15年は66の四球を選ぶなど、チームのために出塁することを第1に考えるタイプの選手だ。なおかつ15年は34盗塁で盗塁王のタイトルまで獲得しているから、打席でも、塁上にいても、投手に神経を使わせる実にいやらしいプレーヤー(もちろん褒め言葉)なのである。

 そんな中島卓の本塁打だったからこそ、場内は驚きの声に包まれた。ただし、この一打、まぐれでも、出会い頭でもないことが、本人の一言から見てとれる。

「内角を頭に入れていたので、体がうまく反応してくれました」

 打ったのは武田翔太が投じた3球目の内角ヒザ元ストレート。ソフトバンクバッテリーはカットされやすい外角ではなく、内角勝負で早めに打ち取りたかった(1、2球目も内角)のだろうが、中島卓はそれを読み切って打ち損じることなく弾き返している。

 本塁打という結果には本人も驚いているようだが、野球解説者の吉村禎章(元巨人)氏は、中島卓のカット打法について以前、このように語っている。「カット打法は多くの方が考えている以上の高等技術です。中島君は出塁を第1に考えての技術習得でしょうが、その結果、甘く入れば確実に弾き返せるだけの技量、バットコントロールも同時に身に付いていると思います」。つまり、ヒットの延長ならぬ、カットの延長のプロ入り第1号だったというわけだ。

 ここで思い浮かぶのが巨人・井端弘和コーチの、現役時代の姿である。プロ通算18年のキャリアで1912安打を積み重ね、13年の第3回WBCで日本を救った数々の殊勲打も記憶に新しい巧打者。そんな守備のみならず打撃にも秀でた井端コーチだが、亜大時代の4年間、打撃練習では「ファウルを打つことしか許されなかった」という。「どんなに快心の当たりを打っても、監督やコーチに怒られる。お前はファウルだけ打っとけ、と」。

 だからドラフトを控えた大学4年時の、とある球団のスカウト評は「守備はいいが、打撃がしんどい」だったのだが、この練習が実を結んだのが中日入り後のこと。難しいボールを簡単にファウルにする技術を身に付けていたことで、投手が根負け。結果、甘いボールを逃さずに安打を重ね、3年目の00年には規定打席未到達ながら打率.306をマーク。翌01年より遊撃のレギュラーポジションを手にし、球界を代表するプレーヤーへの道を歩んだ。

 18年のキャリアで56本塁打。06年の8本塁打が1シーズンの最多記録だが、「単打だけではない」を相手に意識させるだけで警戒レベルが変わる。つまり、ストライクゾーンだけで勝負ができなくなる。中島卓も、まさにこの段階に達しつつあるのではないだろうか。意識は出塁も、甘く来れば一発長打。そしてまた警戒されて出塁を稼ぐ。そんな中島卓の姿が、今後、数多く見られるかもしれない。

文=坂本 匠 写真=湯浅芳昭
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