1977年、今から40年前、大げさではなく、日本中がプロ野球に熱狂した時期がある。王貞治のハンク・アーロンが持つ当時のメジャー最多記録通算755号本塁打への挑戦だ。アーロンはブレーブス、ブリュワーズで76年まで現役を続けたホームランバッターだが、その引退翌年に王が世界記録を狙うのも、面白いめぐり合わせではある。週刊ベースボールでは、9月3日、756号の世界新記録達成までのカウントダウンを当時、王がホームランを打った日に合わせながら、写真とともに振り返る。 ワシントンポストも異例の大特集
当たったのはややバットの先っぽにも思えたが、打球は伸び右中間スタンドに飛び込んだ
747号、ついに残りを1ケタの9本とする一発は、8月10日、745、746号と同じナゴヤ球場の
中日戦で飛び出した。8回無死から
村上義則のカーブをとらえ、右中間スタンドに31号ソロ本塁打。村上が、「もう少し先なら外野フライだったのに」とコメントしたとおり、ややバットの先っぽに見えたが、打球はグングン伸びていった。それだけコンディションもいいのだろう。
試合も7対3で勝利し、
巨人の貯金は22となった。完全な独走態勢だ。
試合後、記者に囲まれた王は「あと9本ですね」の質問に「あ、そう?」とそっけなく答えた後、苦笑しながら「あまり言わないでほしいよ。忘れていることを思い出すじゃないか。いつも言うけど、ホームランは計算しては打てないものだよ。全打席その気になってやっているけれど、狙って打てるものじゃない」と語った。
本塁打王争いをしている
阪神の
ブリーデンが、この日、同じく31号の満塁弾を放ったが、王はそれを聞くと「彼と競っているんで気合が充実してくる。世界新のことも忘れられるしね。僕にとっては何よりの刺激剤だよ」と、やっと心からの笑顔を見せた。
王の世界記録挑戦はアメリカでも大きな話題となり、MLBのキューン・コミッショナーが「王がアーロンの記録を抜いても世界記録と認めない」と発言したと伝えられた。ワシントンポストも異例の大特集を組み、王の自宅でインタビュー。その際、王は「打ったという事実に意味があると思っているので、日本記録の一貫と考えている」と答えたという。
日本のスポーツ紙も連日一面は王。全紙にXデーの予想記事が載ったが、それも解説者や記者の予想だけではなく、コンピュータから占星術まで登場。まさにお祭り騒ぎとなってきた。
<次回に続く>
写真=BBM