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2017甲子園リポート

「11」から「1」へ。絶対的エースとなった東海大菅生・松本健吾

 

東海大菅生のエース・松本は高岡商との2回戦で1失点完投勝利


 西東京大会決勝翌日の7月31日、松本健吾は合宿所で若林弘泰監督に呼ばれた。

 前日、清宮幸太郎を擁する早実を決勝で下して17年ぶりの甲子園出場。その原動力となったのが背番号『11』松本だった。日大三との準々決勝で強打線を無失点に抑えると、東京都大会史上初の満員札止め(3万人)となった決勝では2失点で9イニングを一人で投げ切っていた。

 入学から3年、指揮官に怒られたことは数え切れないほどある。しかも同じことを注意される始末。「ダメダメだった……」。苦い記憶として残っているが、今では心から感謝したい思いだ。ただ、今回は怒られる理由が見つからない。しかし、松本は薄々感じていた。

「もしかして『1』かな?」

 少しばかりの緊張と、期待を込め、監督室のドアをたたいた。予想どおりだった。指揮官から「お前が『1』な」と2年秋以来となるエース番号の打診を受けた。「うれしかったです!」。それ以上の言葉はいらない。現役時代、ピッチャーだった若林監督(元中日)。投手心理を読んだ、絶妙のタイミングだった。

 この3年間、松本は決して順風満帆とは言えなかった。

「コントロールが悪かったり、マウンドで頭が真っ白になったり……。チームに迷惑をかけてきた」

 3年春を前に左スネを痛め、東京都大会は「ギリギリ間に合った」と背番号20でベンチ入り。最後の夏までに若林監督の信頼を勝ち取ることができず、今夏は「11」が手渡された。

「悔しかったが、自分がエース、主戦のつもりで投げた」

 最速145キロ。ストレートで押すよりは、丁寧にコーナーを突いていくタイプ。タテ横のスライダーに、真っすぐと同じ軌道から変化するカットボール、追い込んでからのフォークも効果的で、高校通算107本塁打の清宮、2年生四番・野村大樹、日大三のスラッガー・櫻井周斗などを抑えた。

「強気にインコース。低めに変化球。自分らしさを出して、たくさんの強打者を抑えることができた。『1』を背負って(甲子園で)投げるのが夢だった。ただ、気負わずに『1』でもやることは変わらない」

 8月14日、高岡商との2回戦は1失点完投勝利。松本は神宮の超満員を経験しており、4万6000人の甲子園でも舞い上がることはなかった。東海大菅生は春夏を通じて初出場だった1996年以来、夏21年ぶりの勝利(11対1)である。


 松本の投手哲学は「心は熱く、頭は冷静に」。東海大菅生は初の3回戦進出(ベスト16)。絶対的エースとなった松本には背番号1が似合う。

文=岡本朋祐 写真=太田裕史
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