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王貞治756号本塁打40周年記念企画

【王貞治756号本塁打(7)】バットへの信頼

 

1977年、今から40年前、大げさではなく、日本中がプロ野球に熱狂した時期がある。王貞治のハンク・アーロンが持つ当時のメジャー最多記録通算755号本塁打への挑戦だ。アーロンはブレーブス、ブリュワーズで76年まで現役を続けたホームランバッターだが、その引退翌年に王が世界記録を狙うのも、面白いめぐり合わせではある。週刊ベースボールでは、9月3日、756号の世界新記録達成までのカウントダウンを当時、王がホームランを打った日に合わせながら、写真とともに振り返る。

新しいバットでも感触を確かめない


ホームランかファウルかを見極める王


 8月23日、広島市民球場で広島・池谷公二郎から750号を放った後、翌24日も同球場で広島との戦いだったが5回表一死一塁で高橋里志のフォークをとらえ、751号を右翼スタンドに放り込んだ。ポールを巻くような当たりだったこともあり、「打った瞬間、距離は十分と思ったが、あとは切れるかどうか」と思った王は、二、三歩進んだ後で止まり、中腰のまま打球を見守った。

 王はそれまで高橋里を苦手にし、通算(74〜80年)でも57打数12安打、打率.211だったが、高橋里は「今の王さんは抑えられないよ」と脱帽。大記録に向け、日に日に集中力が増していった。

 このホームランの記事が載った『週刊ベースボール』には、さまざまな周辺記事があったが、今回はそのうちバットについての記事を掲載してみよう。

 早実の大先輩でもある石井順一氏の「圧縮バット」だ(現在は使用禁止)。かつて、バットはトネリコの木が多く使われていたが、良材質の確保が難しくなったことでヤチダモ、アオダモに変わっていった。石井が使っていたのは、北海道十勝産のヤチダモだ。ヤチダモは、それまで軟式用バットには使われていたが、弾力性がありながらも木質が柔らかで折れやすいため、硬式用は難しいとされていた。

 そのために石井氏が編み出した製法は、熱処理で木材の水分を飛ばした後、真空状態とした中で水分の代わりに樹脂を注入し、高熱でバットの型にはめ込んだ後、圧力をかけて木目を締めていくというものだった。

「サムライの刀が武士の魂といわれるように、打者にとってはバットが魂」と語る石井氏は、王のために厳選した木材をバッティングのクセ、力などに合わせ、手づくりした。石井氏は早実、早大の名選手で、習志野高時代の谷沢健一(のち中日)を指導し、谷沢はいまも「僕の打撃の師匠」と言っている。

 王も石井氏に絶対の信頼を寄せ、新しいバットが来ても感触を確かめることもなく、すぐ使った。

「試合中、たまたまヒビが入ったんで、新しいバットをビニール袋から初めて出して使い、ホームランを打ったこともある。僕にはバランスを確かめたりする必要がないんだ」(王)

<次回に続く>

写真=BBM
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