広陵・中村は8月25日に侍ジャパンU18代表に合流し、翌26日から練習に参加した
「ありがとう」
日常から何気なく使っている言葉だが、その深い意味について考えたことは、あまりなかった。人から注意、指摘を受けた際に、真っ先に口にするのは「すみません」である。
しかし、広陵高校野球部ではこの場面で「すみません」ではなく、「ありがとうございます」を使う。アドバイスに対して真摯に耳を傾け、自ら吸収し、次につなげていけば、人としての成長が期待できる。その感謝を「ありがとう」に込めるのだ。
広陵のモットーは『ありがとう』。甲子園アルプスのフェンス横断幕には『一人一役全員主役』の部訓の横に『ありがとう』とあり、同校野球部にとって大事なフレーズだ。母校・広陵を率いる中井哲之監督は、部員から「中井監督」ではなく「中井先生」と呼ばれる。使い古された表現かもしれないが、野球を通した真の教育現場が広陵野球部にはある。
「ありがとう、という言葉を伝えたいです」
約10分間の取材時間で3回、使った。今夏の甲子園で6本塁打。PL学園・
清原和博の大会記録(5本)を32年ぶりに更新した、
中村奨成(3年)の花咲徳栄との決勝で敗退直後のコメントである。
その相手は苦労をかけた岩本淳太主将(3年)、ベンチに入れなかった控え部員、そして母へ向けられた正直な思いだった。人生の師と言える中井監督へは「1年から使ってもらい、(優勝で)恩返ししたかった」と、「ありがとうございます」の一言では感謝し切れない。
野球は一人ではできない。中村は決勝後、卒業後のプロ志望を表明した。「ありがとう」の実直な姿勢がファンの共感を集め、今後も人生の支えとなる言葉となっていくに違いない。
文=岡本朋祐 写真=高原由佳