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「打てる捕手」の時代は来るのか?

 

プロ、OBからの期待が高い中村奨成


夏の甲子園で大会新記録の6本塁打を放った中村奨成


 9月6日発売(一部地域を除く)の『週刊ベースボール』では現在、高校3年生のスラッガー、清宮幸太郎(早実)、中村奨成(広陵高)、安田尚憲(履正社高)の3人をクローズアップし、現役選手、コーチ、プロOBの野球解説者の声を集めている。

 3人の中で一番の注目を集めたのは、やはり夏の甲子園で大会新記録6本塁打を放った捕手の中村だ。実力差というよりは、「一番記憶に新しい」ことが最大の理由ではないかと思う。

 その中で「待望の打てるキャッチャー」という言葉が何人かの口から出た。確かに現在、セ・リーグの規定打席到達者を見ると、捕手は最下位の小林誠司巨人)、その2つ上(間にヤクルト山田哲人がいるのも驚きだが)の中村悠平(ヤクルト)のみ。パ・リーグは皆無(9月4日現在)。この傾向は近年ずっと続いている。

 歴代の“打てる捕手”と言えば、三冠王を獲った野村克也(南海ほか)が筆頭だが、野村氏は『週べ』のコラム『本物の野球はどこへ行った!』の中で、「キャッチャーが打てないのは信じられない」と書いている。要は、「投手をリードする配球のプロである捕手が、それを打席で生かせないはずはない」ということだ。

 過去の強打の捕手を振り返ると、戦前はハリス(イーグルス)、吉原正喜(巨人)が強打で鳴らしたが、戦後の40年代、50年代は阪神ダイナマイト打線の一角にいた土井垣武が目立ったくらいで、「捕手=貧打」のイメージが強かった。捕手に「女房役」「壁」という形容が使われ、投手をいかに気持ちよく投げさせるかが捕手の仕事と言われた。国鉄ほかの金田正一のようにノーサインで投げる投手も少なからずいたという。

捕手の知識、経験は必ず打撃にも役に立つ


戦後初の三冠王に輝くなど、打撃で鳴らした野村克也


 それを崩したのが、パで1957年から正捕手となり、首位打者1回、ホームラン王9回、打点王7回の南海・野村だ。さすがノムさん、である。

 セでは69年阪神入団でホームランアーチストとも言われた田淵幸一がいたが、強肩ながら捕手としての評価は正直、高くない。むしろ中日木俣達彦のほうが攻守を両立させたと言えるだろう。

 80年代はやや小粒だったが、監督となった野村、森祇晶(昌彦。現役時代は巨人)が捕手の重要性をさまざまな形でアピールしたことで、徐々にイメージが変わっていく。90年代に来てノムさんの教え子であるヤクルトの古田敦也、さらにダイエーには、メジャーにも渡った城島健司が登場する。

 2000年代は巨人の阿部慎之助が打ちまくったが、若いころの阿部は打撃に関する質問をあまり好まなかった。「まずは捕手として評価されたい」という気持ちが強かったのだろう。

 捕手ひと筋の2000安打到達者は野村、古田、谷繁元信(中日ほか)の3人と確かに多くないが、プロ入り後の転向組は、古くは江藤慎一(中日ほか)、衣笠祥雄広島)、松原誠(大洋ほか)、近年では和田一浩(中日ほか)、小笠原道大日本ハムほか)、主に捕手なので心外かもしれないが、阿部もいる。守備の負担が大きく打撃に集中できないのは確かだが、捕手経験がバッティングのマイナスにならないことは確かだ。

 全体の打撃レベルの低下については、守備の負荷に加え、練習時間も関係する。どうしてもバッティング練習に多くの時間を割くことができないからだ。

 野村氏はこうも言った。

「打者の自分と捕手の自分を切り離すからいけない」

 捕手の知識、経験は必ず打撃にも役に立つ、と。

 中村だけではない。西武には森友哉がおり、巨人には宇佐見真吾、現在は二軍だが広島の坂倉将吾ら強打の捕手が頭角を現しつつある。果たして、新たなる「打てる捕手」は登場するのだろうか。

写真=BBM
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