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【MLB】 クオリティースタートはもう古いのか? 

 

戦力豊富なドジャースは、有能なリリーフ陣を集め、打順が3巡目のときにリリーバーを当てるというデータに基づいた野球で50以上の貯金を作っている。これが新しいチーム作りの基準になるか!?(写真はドジャースのロバーツ監督(左)とマーク・ウォルター筆頭オーナー)


 広島カープで「ミスター完投」と呼ばれた黒田博樹投手がドジャースに来て、「クオリティースタート(以下QS)」の考え方を知り、中4日でゲームを作ることに専念するようになったのが2008年。あれから9年、MLBでまた新しい考え方が広まっていく気配だ。野球をよく見る人なら、先発投手が打線の3巡目を迎えると、打たれる確率が高くなるのは常識として知っている。投手は疲れ、打者の目が慣れる。今までなら、そこもしっかり耐えて、200イニング投げてくれれば、ブルペンの負担を減らせ、シーズンを通してチームがいい状態で戦っていけるというコンセプトだった。

 そこに新たに出てきた考え方とは、3巡目で打たれる確率が高いなら、早く先発投手を諦め、フレッシュなブルペン投手と交代すればいいと割り切ること。前田健太投手のQSがとても少ないことが指摘されているが(20試合に先発し4試合のQS=約20パーセント)、これは彼の実力以上にチーム方針なのである。

 実際、彼の投げた試合では、14勝6敗で7割の勝率なのだ。左腕の柳賢振も18試合先発で4試合がQSの22パーセント、左腕リッチ・ヒルも19試合中6試合がQSの32パーセントといった具合だ(現地時間8月24日現在)。

 いかに27個のアウトを効率的に取るかがドジャースの最優先事項。先発は早く下がって、リリーフが早く出てきて、ピシャリと抑える。この考え方の正しさはデータで証明されている。

 2016年、1巡目打者のOPS(出塁率+長打率を足し合わせた値)は・735、2巡目は・753、3巡目は・792だった。一方リリーフ1巡目の値は・713。先発の3巡目にリリーフ1巡目をあてがえば、勝つ確率が高くなるのは一目瞭然である。とはいえ、このドジャースの戦い方は、ほかのチームも今後コピー可能なのだろうか。

 ロサンゼルス・タイムズ紙のアンディ・マックロウ記者は、15年、世界一に輝いたロイヤルズを取材していた。「ドジャース式は良い選手が40人くらい必要。豊富な資金力を生かして戦力を厚くし、ブルペンもどんどん入れ替えていけるから、こういう戦い方ができる。資金に限りのあるロイヤルズには無理で、10人から15人いた15年の主要メンバーがピークを過ぎれば、今年の結果(64勝62敗)のように戦績は徐々に落ちていく」と言う。

 しかしながらドジャースだけでなく、ナ・リーグで一番成績の良いアストロズも、先発投手を早く代えて成功している。今季一番先発投手が長いイニングを投げるのはナショナルズだったが、これではプレーオフで戦えないと判断、トレードデッドラインでブランドン・キンズラー、ショーン・ドゥリトル、ライアン・マドソンと、元クローザーのリリーフ投手を3人も補強しているのだ。

 16年、公式戦で先発投手は全イニングの63パーセントを投げたが、プレーオフは56パーセント。絶対に勝ちたい試合は、リリーフをどんどんつぎ込んだ。特にそれをうまくやったのはスモールマーケットのインディアンスだった。だから資金力に関係なく、これからの強いチームの考え方の土台になりそうな気がする。QS、200イニングという概念が、以前ほど重要でなくなるかもしれないのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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