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侍ジャパンU-18戦記

【侍ジャパンU-18戦記(09)】清宮幸太郎が放った待望の一発の“舞台裏”

 

現地時間9月1日から始まる「第28回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」。清宮幸太郎を主将とした“高校生ジャパン”がカナダで世界を相手に奮闘を繰り広げる。悲願の世界一へ――。若きサムライたちの戦いを追う。

監督と“2人ミーティング”


四番・清宮は南アフリカ戦の4回裏、右越えのソロ本塁打を放った。三塁ベンチには笑みを浮かべる小枝監督の姿があった


 今大会、21打席目にして待望の初本塁打を放った四番・清宮幸太郎(早実)。日本は9月5日、南アフリカとのオープニングラウンド最終戦を12対0の7回コールドで終え、通算成績は4勝1敗。主将の一発により、チームのムードも高まってきた中で、小枝守監督は主将との2人だけの“舞台裏”を明かした。

 カナダ・サンダーベイ入りして数日後。消灯前、小枝監督が滞在する部屋に、ノックの音が聞こえた。“アポなし”で清宮が、指揮官を“電撃訪問”してきたのである。

「監督さん良いですか? お話がしたくて……」

 指導者生活50年近くの小枝監督も、初めての経験だったという。30分間、ヒザを突き合わせた“2人ミーティング”で、清宮は悩みを打ち明けたのである。

 国内合宿における練習試合で2戦(対千葉工大、対日大)連続本塁打を放った清宮だが、最終第3戦(対城西国際大)は無安打に終わり、打席でも崩されるシーンが見受けられた。現地入り後は航空会社の不手際によりバットが届かず、初日の練習は打撃練習なし。自身の打撃の調子が上向かないのに加えて、主将として初めて代表チームをまとめる難しさ……。現状を打破するため、小枝監督の下へ自然と足が向いたのであった。

「今まで皆さん(報道陣)が作ってくれた清宮幸太郎という像もあるだろうし、彼自身が持っている清宮幸太郎という像もあるでしょうけどね。だからその中を取って、君はこうだぞ、という話をとくとくとして論してあげました」

「甘えん坊なんですよ、アイツ」


 大会開幕後も、日本の四番は本来の打撃ができずにいた。3試合で9打数1安打。キューバ戦では2度にわたる好機で、清宮の前を打つ三番・安田尚憲(履正社)が歩かされる屈辱を味わっている。この試合、清宮は無安打ながら、決勝点を含む2つの犠飛を記録した。

 小枝監督としては「点が欲しいときに良い仕事をしてくれた。一つあればいい」と、内容よりも結果に満足していた。しかし、打撃において完璧主義者である清宮は納得がいかない。試合後の取材も、やや浮かない表情だった。

「インタビューが終わって最後にバスに乗ってきたときに、皆が『ナイスキャプテン!!』って迎えたんです。僕はそれがすごく、印象に残っている。それを彼がどうとらえるのか、興味を持っていた。自分の成績で一喜一憂しているようだったら、ガツンといかないといけないですし」

 翌日のミーティングでは「チームの勝ちを優先する。個人成績は二の次。個人の感情で表情を出すな!! そんなことを求めているのではない」と訴えた。チーム全体へ向けた言葉ではあったが、清宮へのメッセージ性が濃い内容であったことが想像される。

 試行錯誤を経て、待望の一発が飛び出した。技術指導は原則、大藤敏行ヘッドコーチに任せているが、南アフリカ戦前は一言だけアドバイスした。

「(ボールを)追いかけているから上半身と目のブレがあるので、それをなくせば芯に当たるだろう、と。体の開きを抑えようと、右肩が入っていたから『じゃあ開けばいいじゃないか』と言ったら逆に右肩が動かなくなった。意識するのを逆の表現にしてやる。これは私の持論なんです」

 助言はどちらから行ったのかを問われると、小枝監督は「アイコンタクトです。甘えん坊なんですよ、アイツ」と、父親のような笑顔を見せた。今大会初本塁打の背景にあった、監督と主将による全幅の信頼関係。侍ジャパンU-18代表は「急造チーム」から、新たな局面を迎えている。

<次回に続く>

文=岡本朋祐 写真=早浪章弘
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