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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

引退表明した日本ハム飯山裕志を支え続けた「日本一使いづらいグラブ」

 

自身の“相棒”であるグラブについて熱っぽく語る飯山


プロ生活20年間で一度もレギュラーにはなれなかった。それでもこの男には、誰にも負けない守備力があった──。

 9月15日に今シーズン限りでの引退を表明した日本ハム飯山裕志。出場機会はほとんどが試合終盤の守備固めが中心だったが、チームでも1、2を争う鉄壁の守りで日本ハムの5度のリーグ優勝、2度の日本一に貢献し、まさに“いぶし銀”という言葉がぴったりの職人気質の選手だった。

 そんな守備の達人である飯山に“相棒”とも言える愛用するグラブを見せてもらう機会が過去にあった。やさしい眼差しで開口一番、彼が私に言った言葉が「ほかの人はまず使えないと思いますよ。こんなに硬くて、ポケットも深いグラブってないですからね。チーム内でも“日本一使いづらい”と大不評ですから(苦笑)」。

 実際に触らせてもらったグラブは、見た目以上にズッシリと重厚感があり、ビックリするほど硬い……。「最近の子はみんなガンガン開いてやらわかくしますけど、僕はそれが嫌なんですよね。いわゆる“当て捕り”をしたくないというか。しっかり深めのポケットで捕球してから投げたいんですよ」。表現するなら、スポーツ用品店で買ったばかりのグラブをほんの少し慣らしたぐらいの感覚だろうか。

 ほかにも特筆すべきポイントが薬指のカバー。グラブの中を見ると薬指を固定する不思議な輪っかが縫い付けられている。指の中ではあまり気を使わない薬指だが、ここにも守備職人ならではのこだわりがあった。単純に指を保護するために付けられているのではなく、薬指の部分はちょうど捕球するポケットの中心部分となり、自分の頭の中で常に「この部分で捕るんだぞ」という徹底した“意識付け”ためのひと工夫だという。

 試合終盤の守備固めで起用される以上、絶対にエラーは許されないというプレッシャーとも戦った日々。そのために誰よりもひたむきに練習し、ノックを受け、道具を含めて人知れず完璧なまでの準備を積み重ねてきた真のプロフェショナル。それが北の守備職人・飯山裕志という男だった。

 チームは野球に対する真摯な姿勢と技術を高く評価し、コーチのポストを用意することが濃厚。今後は指導者としてその培ってきた技術と経験を、若い選手たちに伝えていくことになりそうだ。

 なお、引退試合は10月3日のオリックス戦(札幌ドーム)で行われることが決定。自身の登場曲である「ユ〜ウ〜ジ!」のサビが印象的な長渕剛の「勇次」が球場に響き渡るのも、この日が最後となる。
 
文=松井進作 写真=桜井ひとし
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