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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

セ新人最多安打記録を持つ“ミスター”の衝撃的なルーキーイヤー

 

新人時代の長嶋茂雄。精悍な顔つきだ


 9月28日現在、残り6試合で145安打――。中日京田陽太が1958年に巨人の長嶋茂雄が記録したセ・リーグ新人最多の153安打を抜くか話題になっている。のちに“ミスタープロ野球”と呼ばれた男の新人時代。安打だけでなく、そのほかでもすさまじい記録を残した。

 まず、強烈な印象として残っているのはデビュー戦だろう。4月5日、後楽園球場の国鉄戦。相手の先発は左腕の金田正一。説明するまでもなく、球界史上最強のエースである。結果から言えば、長嶋はここで屈辱の4打席連続三振。バットに当たったのは1球だけ。ただ、4つとも豪快にフルスイングしての空振り三振。ファンはプロの意地を見せた金田だけでなく、長嶋の豪快な“負けっぷり”にも魅了された。

「金田さんも大学出たてのヤツに打たれてたまるかという気持ちがあったのでしょうね。とにかくボールが違った。とても打てるはずがありません。快速球はもちろんですが、あの2階から落ちてくるようなカーブ。これに驚いてしまいましたね。何度投げられてもボールにしか見えないんです。でもコールはストライク。『え〜、何で?』の繰り返し。その晩は悔しくて眠れなかったですよ」

 4月は打率.238。さすがの長嶋にもプロの洗礼があったのかと思われたが、そこから猛烈な勢いで打ちまくる。5月は打率.397で通算打率も3割に乗せる。圧巻は6月22日の大洋戦(川崎)。1試合3ホーマー、しかも3本とも場外弾だった。8月6日の広島戦ダブルヘッダー、第1試合で初の四番に座ると、その試合の4回に四番として初の一発。9月6日の阪神戦では2発を放ち、53年に豊田泰光(西鉄)がマークしていた新人最多本塁打記録27本に並んだ。また、9月19日に行われた広島戦(後楽園)では本塁打を放った際、一塁ベースを踏み忘れ、取り消される“事件”もあった。

 最終的には打率.305、29本塁打、92打点、37盗塁で優勝に貢献。本塁打王と打点王を手にし、打率と盗塁は2位だった。新人ながら、三冠王を目前にし、幻の1本がなければ“トリプル3”も達成していたことになる。さらに、満票で新人王、ベストナインにも輝いた。

 成績だけでない。長嶋のスピード、ダイナミックなプレー、明るさに人々は魅了されていった。長嶋人気はこれまでプロ野球に興味を示さなかった層まで広がっていき、特に少年ファンの増加はすさまじかった。

 日本シリーズは西鉄の前に3連勝から4連敗を喫して打ちのめされたが、日米野球でうっぷんを晴らした。全日本の一員としてカージナルスと対戦。第1戦で本塁打を放つなどバッティングで魅せ、さらに球際に強い三塁守備、積極果敢なベースランニングといったアグレッシブさが目を引き、メジャー・リーガーに“ハッスルプレーヤー”と絶賛された。結局、全16試合中、15試合に出場し、13安打、3本塁打、3打点、2盗塁、全日本最高の打率.283をマーク。最終戦後、カージナルス側が選ぶ最高殊勲選手に選ばれた。

 プロ野球の新時代を予感させる男のデビュー。新人最多安打だけでは片づけられない、まさに“ミスタープロ野球”にふさわしい、後世にまで刻まれる衝撃的な1年だったのは間違いない。

写真=BBM
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