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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

元西武・岡本篤志「ミャンマーでスポーツウォールを広めたい」

 

「野球の底辺を拡大していきたいですし、その中で考えていることの一つとして、アジア圏の国で野球を広める活動に力を入れていきたい」――。西武で通算265試合に登板するなど、主に中継ぎとして活躍して、昨年限りで現役を引退した岡本篤志は第二の人生について、このように語っていた。ユニフォームを脱いで1年。今、その夢を実現させるべく徐々に前へ進んでいる。

ミャンマーの子どもに体を動かす環境を


ミャンマーの子どもに野球を教えることで、新たな考えが生まれた(写真は本人提供)


 9月下旬、岡本篤志の姿はミャンマーにあった。今年4度目の訪問。現地で野球振興の基盤づくりに務めている。

「本当はインドでやりたかったんですけど、いろいろと難しくて。そのとき、ミャンマーで野球を広めた岩崎亨さんという方が書かれた本を読んだんです。都市部は別ですけど、ミャンマーの地方では人身売買や大麻を吸う子どもがいる。そういった負の連鎖を断ち切るために、岩崎さんは野球を広めようとしたのですが、僕もその部分に共感したんです」

 そこから、すぐに行動した。知り合いがミャンマーで事業をしているなどツテはあり、情熱が形になるのに時間はかからなかった。2月下旬、初めてミャンマーへ。しかし、現実は厳しかった。

「現地に日本人の駐在員で結成した野球チームがあり、そこで野球教室をしました。そのチームとミャンマーのナショナルチームが試合もしたのですが……。ナショナルチームですが駐在員のチームに勝てないですからね」

 無理もないだろう。国内にサッカーのプロリーグはあるが、野球はない。ナショナルチームも普段から恒常的に試合を行っているわけではなく、単なる寄せ集めだ。孤児院の子どもにも野球教室を行ったが、その最中はみな元気ハツラツに、楽しそうにバットを振り、ボールを投げる。しかし、プロという目指すべき場所がない現状では、それは一時的なものに過ぎない。

 さらにミャンマーはスポーツ文化に乏しいことが分かった。発展途上国で、教育には力入れているが、それは勉強だけ。アジア圏の国の多くがそうだが、例えばミャンマーの学校の授業には体育がない。

 その現状を目の当たりにし、岡本の頭に新たな考えが浮かんだ。

「やっぱり、人間として、体もしっかりしていないと。体を動かすことで、脳が活性化され、教育にもつながっていくでしょうから」

 野球振興の前にやるべきこと――。新たな視点に立ち、浮かんできた発想が「スポーツウォールを広めていこう」ということだ。

 スポーツウォールとは学校、公園のグラウンドなどに設置できる、スポーツの練習などに使用できる壁だ。日本野球機構も小、中学校や地域の公園にベース・ウォールと呼ばれる同様の壁を寄贈する事業「NPB 未来の侍プロジェクト」を行っている。岡本は、ミャンマーの学校に日本の教育で重要視されている、この遊具の設置を広めたいと考えたのだ。

「まずはミャンマーの子どもたちが、体を動かす環境を作ってあげたいな、と。まだ、ゼロの状態ですけど、ベース・ウォールを広めて、それが野球振興にもつながっていけばと思います」

 近い将来ミャンマーから日本のプロ野球チームに入る選手を発掘し、満員の観客中でプレー する姿をミャンマーの人たちに見てほしい――その夢は大きく広がっていく。

アスリートネイルの普及活動


 それだけではない。現在、岡本は一般社団法人アスリートネイル協会の理事も務めている。

 その中身は何か。

 野球に限らず、アスリートは一般人と比べ、何倍も爪に負担がかかる。ダメージを受け、爪がボロボロに弱ったり、病気にかかったりした爪に悩んでいるアスリートが多く存在しているのも事実だ。

 爪は物を「触る」「つかむ」といった日常を支える機能を持ち、「立つ」「歩く」といった人間の基本姿勢、動作の要として、力のバランスを取る重要な役割を果たしている。

 特に繊細な感覚、常にベストコンディションを求められるアスリートにとって「爪のメンテナンス」は、体、心のメンテナンスと同様に重要だと言えるのだ。

 そういった話を聞き、爪がもたらす重要性を認識した岡本はアスリートネイルを広める活動に携わることを快諾した。

「今年、高校(三重・海星高)の後輩である高木(勇人)が打席でバントをしにいってデッドボールを受けて。2人で食事に行ったとき、爪を見たらボロボロになっていたんです。そこで、ネイルトレーナーに施術してもらったんです。高木は『長めのほうがいい』と言うから、ジェルで爪を作って、なおかつ中に巻いている感じだったので、それも真っすぐ伸びるように促して。そういったこともできるんです」

 その昔、トレーナーの存在も球界では稀だった。しかし、その重要性が認識され、今では各球団、多くのトレーナーが選手の体調管理に一役買っている。それと同様に、ネイルトレーナーの価値も向上させ、プロ野球界に認知されるようになればと意気込む。

「そのほかにもやりたいことはあります。例えば選手のライフサポート。節税だけで、残せるお金はだいぶ変わります。私の会社では確定申告だけでなく、そのあたりもしっかりやっていきます。あと、ミャンマーでいろいろと活動を進める中で、現地の財閥とも知り合いになるなど顔も広がってきました。例えばミャンマーに進出したい企業に対して、現地のリサーチやマッチングなどもやってみたい」

 1年前、引退会見で「1日1日をムダにせず、真摯に野球と向き合って努力してもらいたい」と後輩へメッセージを送った岡本だが、自身も同様に一心不乱にセカンドキャリアで夢に向かって邁進している。

文=小林光男
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