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ロッテの新指揮官・井口資仁が目指す野球とは

 

ロッテの監督就任会見に臨んだ井口新監督


 10月12日、井口資仁新監督の就任が正式に発表され、14日には千葉市内のホテルで会見が開かれた。いつもは笑みを絶やさぬ新指揮官も、この日ばかりは最後まで口元が引き締まったままだった。

 果たして、どんな野球を志向するのか。そして、どんな指導を行っていくのか。会見で口にしたキーワードを列挙すれば、前者は「攻撃野球」「機動力野球」、後者は「チーム内競争の活性化」「選手とのコミュニケーション」「選手の自主性を促す」「メジャー流と日本流の融合」といったあたりになる。

 現役引退から即、監督就任。指導者経験がないことを不安視する声が上がるのも当然だろう。しかし、個人的には期待値のほうが上回る。正式発表の数日前、井口“選手”の引退惜別インタビューを行った際、随所に指導者としての顔が垣間見えていたからだ。

 井口新監督は引退試合の1カ月前から一軍登録を抹消され、最後の花道を飾るためにロッテ浦和で若手とともに汗を流していた。その経験について「若手や一軍で結果が出ていない選手たちといろいろな話ができたし、彼らもいろいろなことを聞いてきてくれた。今後に本当に生きる1カ月になった」と話していた。

 選手とのコミュニケーションを重視したい、その理想像がホワイトソックス時代の指揮官だったオジー・ギーエンだと会見で語った新監督の言葉とリンクする。事実、現役時代も行動に移していた。

「ダイエー時代は先輩たちに自分から『ご飯に連れて行ってください』と言って、いろいろな話を聞かせてもらった。だけど今の選手たちはあまりそういうことはしない。だから悩んでいる選手がいたら、(こちらから)ご飯に連れて行って、くだらない話をしながら、ヒントになるようなことをボソッと伝えていた。それで引き出しが増えてくれればいいなと思って」

 興味深かったのが、「野球のどんな魅力が、これほどまでに井口選手を惹きつけるのか」という問いに対する答えだ。「見ている人たち全員が監督になれるじゃないですか。自分だったらこうする、こういうサインを出す、とか。その『どうする』が人それぞれで違う。それが合っているか合っていないかではなくね」。

 選手が繰り広げるダイナミックなプレーでも、球場の雰囲気でもなく、まず目を向けたのはゲーム性。井口監督が現役時代から“指揮官の視点”で野球というスポーツを見つめていたことの証左だろう。「自分のスタイル(野球観)に基づいて、コマ(選手)をどう動かしていくか。人それぞれ、その考えが違うから野球は面白い」。

 もちろん、「機動力を駆使した攻撃野球」というキーワードも決して思いつきのものではない。2001年に盗塁王に輝いたことを振り返ったとき、「足も使っていかないと自分は選手としてやっていけないと感じたし、自分の野球観としても足を使わないと勝てないと思っている」と口にしていたのだから。

 取り入れるべき「メジャー流」のポイントも明確だ。「メジャーの選手はハングリーなんだけど、オンオフがしっかりしているから気持ちの切り替えは早いし、自立している。日本ではまとまってナンボみたいなところがあるけど、メジャーの選手は自分で自分をアピールできる」。

 さらに、常勝を誇ったダイエー時代のホークスがいかに個性の強い、もっと言えばアクの強い選手たちで構成されていたかを引き合いに出しながら、マリーンズに限らず今の日本の選手たちには個性が足りない、と続けた。

 春季キャンプで一、二軍の枠を撤廃し、練習の濃度アップと効率化を図って自主練習の時間が多く取れるようにする構想を打ち出したのも、まず選手たちが自主性を持ち、自立することを前提としているはずだ。井口監督の取り入れようとしている「メジャー流」は、メンタル的な部分が大きいと言えるのかもしれない。

 新指揮官の頭の中に、目指すべき野球と指導の方向性が明確に描かれていることは確かだ。それでも、監督としての船出が簡単なものになるはずはないだろう。今季、球団ワーストを更新する86敗を喫したチームを、どう改革し、導いていくのか。期待を持って新生マリーンズの行く末を見守りたい。

文=杉浦多夢 写真=内田孝治
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