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【MLB】苦しい時期のダルビッシュを救った数式「xwOBA−wOBA」

 

不運な当たりにより勝利の権利を逃すこともある先発投手。しかし、メジャーでは、その数値までも試算可能になってきた(写真はダルビッシュ)


 9月11日、当時3連敗中のダルビッシュ有投手(ドジャース)が自身のツィートで「MLBの投手で8月1日から今日まで最も不運なピッチャーだったらしい(笑)。次の2カ月は最も運のいい投手になるサインかな?」とつぶやいていた。本人に確認はしていないが、ファングラフスのデーブ・キャメロン記者の記事のことを指していると思われる。

 スタットキャストのデータに基づく数式で、8月以降、xwOBA(.272)−wOBA(.376) = -104。キャメロン記者は、マイナスがほかのどの投手よりも大きく、これはアウトになるはずの打球がヒットになる不運が続いたから。こんなことは永遠に続かない、とした。

 xwOBA(allowed)とは一つひとつの打球の速度と角度、つまりコンタクトの質を、過去のほかの選手も含めた打球と比較し、どれくらいの確率で単打、二塁打、三塁打、本塁打になっているかを見て、数値をはじき出したもの。一方、wOBA(allowed)は安打、本塁打、四球など、プレーの結果を基にどれだけやられたかを数値化している。そこで登板試合ごとに数字を調べたところ、9月2日、4回途中8安打5失点のパドレス戦は「(.228)−(.555)=(-.327)」で、この2年間で一番運が悪かった。確かに緩いゴロが何度も内野手の間を抜けている。同8日のロッキーズ戦も4回までは良かったが、5回に不運な当たりが続き5安打5失点降板。「(.282)−(.420)=(-.138)」だった。

 ほとんどの読者にとって、xwOBAは初耳であろうし、コンタクトの質だけで、投手の実力を測ってよいのかと考えるに違いない。そこでxwOBAのランキングを見ると、今季先発投手1位はナショナルズのマックス・シャーザーで(.242)、2位はインディアンスのコーリー・クルーバー(.248)、以下クリス・セール(レッドソックス)、クレイトン・カーショー(ドジャース)と続く。16年は1位カーショー(.224)、2位はメッツのノア・シンダーガード(.261)と実力派ぞろいだ。さらにもっと良い例がある。平均程度の先発投手と見られていたレッドソックスのリック・ポーセロは昨季22勝4敗でア・リーグのサイ・ヤング賞を獲得した。数式で見ると「(.305)−(.277)=(+.028)」だった。今季は11勝17敗、数式では「(.330)−(.354)=(-.024)」。ポーセロの2年間の勝敗数には雲泥の差があるが、xwOBAは少ししか変わらない。ポーセロの16年は、極めて運が良かったと見なしてよいのではないか。

 9月13日のジャイアンツ戦に先発したダルビッシュ。キャメロン記者の予言は的中した。7回3安打無失点で34日ぶりに勝ち投手。数式で見ると「(.284)−(.123)=(+.161)」。実はこの2年間で最大のプラス、つまり一番運の良い試合だった。本人も試合後「今年はずっと運が悪かったんですけど、今日は強い当たりが野手の正面に行ったり、良いプレーが出たり運が良かった」とホッとした表情であった。

 われわれは、これまでこういった運、不運を「野球の神様が……」で片付け、それ以上深くは考えなかった。それが今、神の領域に「xwOBA-wOBA」の数式が入った。「合理的な分析」が可能になってきた。
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