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MLB最新戦略事情

【MLB】なくならないメジャー有望株選手の囲い込み

 

ヤンキースの亡きジョージ・スタインブレナー元オーナー(写真)にかわいがられたコッポレラGM。国際アマチュア選手の契約の違反行為でブレーブスを去った


 今季の終了時に、驚いたのはブレーブスの38歳、ジョン・コッポレラGMが辞任を発表したことだった。理由は中米の国際アマチュア選手の契約で、違反行為がいくつも見つかったからだ。特に重大なのはケビン・メイタンというベネズエラ出身の遊撃手。14歳のときから囲い込み、フロリダのアパートに住まわせ、ルールで認められる16歳になって契約した。

 ご存じのように、MLBは優秀な若手を獲得するための競争はとてつもなく激しい。とりわけ、ドミニカ共和国やベネズエラの10代のアマチュア選手の獲得合戦は、仁義なき戦いというか、なんでもありで、他球団に決まっていた選手をかっさらったり、払える契約金に上限があっても、第三者を介してこっそりそれ以上払うようにする。アメリカ19世紀、無法者がはびこった西部劇の舞台のようだと形容される。 

 コッポレラGMはノートルダム大出身。新卒でインテル社から9万ドルの年俸を保証されながら、1万8000ドルのヤンキースのインターンを選んだ。野球の仕事をしたいという純粋な情熱があった。ヤンキースでは猛烈に働き、亡きジョージ・スタインブレナー元オーナーに「THE KID」と可愛がられた。

 2006年からブレーブスに移り、優秀な仕事ぶりで着々と昇進、15年シーズン終了後にアシスタントGMからGMに昇格。そんな人物でも、というか、そんな人物だからこそというのか、ルール違反で辞任に追い込まれた。

 ブレーブスの再建は着々と進んでいた。ファームに優秀な若手をストックするためにベテラン選手を次々にトレード。それゆえにチームは3年連続90敗以上だが、プロスペクトの頭数は増え、トップランクのマイナーシステムと評されている。すでに書いたように、ドミニカ共和国やベネズエラでの壮絶な獲得合戦では、違反すれすれの行為が常態化している。その中で処分を受けたのは、新しい労使協定の国際選手契約に関する条項を守らせようと、コミッショナー事務局が躍起になっているからだろう。機構側が優柔不断な態度を取るなら、他チームもルールを破り、なし崩し的になってしまう。

 また、MLB機構の調査が入ったとき、コッポレラGMはほかのチームもやっていると開き直り、非協力的だった。コッポレラがヤンキース時代に出会い、父親のように慕ってきたベテランスカウト、ゴードン・ブレイクリーも解雇された。

 MLB機構は、1年前、新労使協定締結を巡る話し合いの中で、国内のアマチュアドラフトのような、世界を網羅する国際ドラフト制度を導入する考えだった。しかし、選手会の反対にあう。国内ドラフトは契約金もスロットシステムで払える金額が順位ごとに決まっている。ドミニカ共和国やベネズエラの球界関係者が嫌がったのだろう。

 しかしながら今回のGM辞任のようなスキャンダルを防止するには結局、ドラフトしかないのだろう。優良企業の安定した収入を蹴って、夢を追いかけて球界に入った若者が、GMにまで上り詰めながら、違反を犯し球界を去る。繁栄を謳歌(おうか)するMLBの、恥ずべき部分だろう。


文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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