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ドラフト検証

【ドラフト検証】ドラフト戦線、社会人有利は本当か?

 

大学卒業後に進むパターンもあれば、高校から直に進む場合もある。しかし、昔からプロでは社会人出身の選手が活躍してきた。2017年は投手では山岡泰輔(東京ガス→オリックス)、野手では源田壮亮(トヨタ自動車→西武)で1年目から戦力となっている。ドラフトにおける社会人野球の位置づけをあらためて検証する。

野手が社会人経由でプロ入りするのは狭き門


昨秋のドラフトで西武に3位指名された源田(トヨタ自動車)は1年目からレギュラーに定着、新人王の筆頭候補だ


 ある球団のスカウトから、こんな話を聞いたことがある。

「単純にプロで活躍することだけ考えたら、なるべく若いうちにプロ入りしたほうがいいと思います。レベルの高い環境で揉まれて得られるものは大きいし、実戦に勝る練習はない。特に野手などは若いころの実戦経験の積み重ねが大事になるので、社会人よりも大卒、大卒よりも高卒のほうがチャンスは広がりますよね」

 言い得て妙――。たしかにドラフト会議の傾向として、まず大きな話題を集めるのは高校生だ。そこにスター候補が少ないと見られるや、今度は高校卒業後に飛躍的な成長を遂げた大学生が“第二世代”として注目され、年齢を重ねた社会人や独立リーグの選手は即戦力として、各球団のチーム事情に合わせて評価される。また実際、最近5年間でドラフト指名を受けた社会人選手をポジション別に見ると、次の通りになる。

【2016年=17人】(投手14人、捕手1人、内野手2人、外野手0人)
【2015年=27人】(投手17人、捕手4人、内野手5人、外野手1人)
【2014年=22人】(投手14人、捕手0人、内野手5人、外野手3人)
【2013年=29人】(投手23人、捕手3人、内野手3人、外野手0人)
【2012年=21人】(投手16人、捕手1人、内野手1人、外野手3人)

 圧倒的に投手の割合が多く、野手が社会人経由でプロ入りするのは狭き門。指名する球団側にも「若いに越したことはない」という認識があり、よほど需要にマッチした選手でなければ難しいのが実情だ。

社会人を指名するメリットとは?


 では逆に、それでも社会人選手を指名するメリットは何か。これまで数々のスカウトから聞いてきた話をもとに、主な理由をまとめてみる。

<社会人野球は環境が整っており、選手たちは日常から野球を中心に生活できる。体づくりも技術練習も十分にできるため、体つきを見れば年間を通して戦えるかどうかが一目瞭然で、戦力として計算しやすい>

<社会人まで続けているということは、ひとまず一定のレベルは超えているということ。あとは打撃力、守備力、足の速さなど、何か一つでも飛び抜けて光る部分があるかどうか。それがあれば、残りの要素はプロ入りして試合を経験していく中で順応できる部分が大いにある>

<プロというのはすべてが自己責任。基本的に誰かが教えてくれるわけではないので、自分で考えて一生懸命に練習できるかどうか、人間性が問われる。社会人の選手は一般社会に出て仕事も経験しており、会社を背負って戦っているという意識も高く、考え方の部分の基礎ができている>

 そして言うまでもなく、社会人野球は高校や大学と比べて明らかに全体のレベルが高い。こうした優位性を踏まえると、即戦力としての確実性が求められるのも当然と言える。

 今季、社会人からプロ入りした野手は源田壮亮(西武)、糸原健斗阪神)がともに一軍で出場。特に源田は遊撃のレギュラーとしてうまくハマっている。社会人時代の源田はいわゆる“守備の人”。所属したのが強打のトヨタ自動車とは言え、打順は九番で、俊足を生かして三遊間へのゴロを狙うことが多かった。ただ、当時からスピードとボディーバランスは出色。その部分に長けていたからこそ、プロのレベルになってもうまく順応できているのだろう。

投手、野手ともに豊かな才能が眠る


上位指名が有力なのがJR東日本の田嶋。今秋ドラフトNo.1左腕の呼び声が高い


 社会人球界には、こうした存在がたくさん眠っている。今秋ドラフトを見据えて言うのであれば、内野手では田中俊太(日立製作所)、藤岡裕大(トヨタ自動車)、若林晃弘(JX-ENEOS)、福田周平(NTT東日本)の身体能力が高く、攻守走の三拍子もそろっている。

 外野手では社会人屈指の俊足を誇る神里和毅(日本生命)と鈴木薫(ホンダ)。また、打撃力という点では丸子達也(JR東日本)、谷田成吾塩見泰隆(ともにJX-ENEOS)、菅野剛士(日立製作所)、北川利生(日本通運)、前野幹博(ヤマハ)。捕手で挙がるのは岸田行倫(大阪ガス)と松本直樹(西濃運輸)。辻野雄大(ホンダ)や木南了(日本通運)、大城卓三(NTT西日本)も高い評価を得ている。

 一方の投手。今季、社会人経由の新人では山岡泰輔(オリックス)が先発ローテの一角を担い、酒居知史ロッテ)もシーズン後半に定着。リリーフでも有吉優樹(ロッテ)、平井克典(西武)、森原康平高梨雄平(ともに楽天)らが存在感を示している。

 そう言えば社会人時代の山岡を取材したとき、こう話していた。

「ずっとプロを目指していたけど、高校日本代表で一緒になった松井裕樹(楽天)の直球を見たら次元が違った。直球をもっと磨かなければプロでは活躍できないと思いました」

 山岡も松井も当時は高速スライダーが代名詞だったが、そもそも力強い直球があってこその変化球なのだ。その後、山岡は東京ガスで直球の質を高め、最速を152キロまで伸ばした。さらにチェンジアップの習得など投球の幅も広げ、高評価で満を持してプロ入り。野球界ではよく「コントロールが一番大事」という声を耳にするが、ことプロ野球においてはあくまでも質の良いストレートを投げられることが大前提と言える。

 そう考えると、今年の社会人投手では田嶋大樹(JR東日本)が群を抜いている。最速152キロを誇る左腕。フォームが独特で回転も鋭く、球質が重いから打者は差し込まれる。おまけに先発完投も連投も利き、今季は調子の良し悪しに左右されず安定した投球を見せている。

 鈴木博志(ヤマハ)、鈴木康平(日立製作所)、西村天裕(NTT東日本)も150キロ超で伸びのある直球が魅力。さらに柏原史陽齋藤俊介(ともにJX-ENEOS)、渡邉啓太(NTT東日本)、嶽野雄貴(西濃運輸)、阿部翔太(日本生命)、奥村政稔(三菱日立パワーシステムズ)、谷川昌希(九州三菱自動車)も球威は十分だ。また左腕の永野将司(ホンダ)、山本大貴(三菱自動車岡崎)、若林篤志(JR東海)はピンポイントでハマる可能性あり。右サイドの本多裕哉(三菱日立パワーシステムズ)も面白い。

文=中里浩章 写真=BBM
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