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日本シリーズ回顧録

【日本S回顧02】物議を呼んだ“パーフェクト継投”【2007年】

 

今年で68回目を数える日本シリーズだが、印象的な激闘は多々ある。ここでは過去の名勝負、名シーンを取り上げていこう。

イニングが進むにつれ、大きくなった球場のざわめき


8回まで完全試合を続けていた山井。シリーズ初の偉業に期待が高まったが……


 セ・リーグ2位からクライマックスシリーズ(CS)を勝ち上がった中日とパ・リーグ覇者の日本ハムが対戦した、2007年の日本シリーズ。

 11月1日、中日が3勝1敗と王手をかけて迎えた第5戦。注目の先発予想は、日本ハムは初戦に先発したエース・ダルビッシュ有が中4日で来ることでほぼ間違いなし。対する中日は初戦を投げたエース・川上憲伸と、この年、春先は右肩の違和感で離脱していたものの秋に復活し、6勝を挙げた山井大介の2人で真っ二つに分かれていた。

 メンバー表に先発投手として名前が記されたのは、山井だった。山井はCSでは登板がなく、公式戦では10月7日以来の登板だった。

 約1カ月近く実戦から遠ざかっていながら、託された重要なマウンド。問題は立ち上がりだが、森本稀哲を遊ゴロ、田中賢介を三振、稲葉篤紀を二ゴロに斬って取る。

「声援が本当にすごくてマウンドにまで響いてきた。パワーに変えようと思いました」

 マウンドには、53年ぶりの日本一を地元・名古屋で決めてほしいという中日ファンの思いが届いていた。

 それに応えるように山井の好投は続く。打線も2回の一死二、三塁のチャンスに、平田良介がダルビッシュからライトへ犠牲フライを放ち先制すると、さらに波に乗った。早く追いつきたい日本ハム打線に対し、プロ19年目の谷繁元信のリード、そして山井のスライダーが冴えわたった。

 イニングが進むにつれ、球場のざわめきが大きくなっていく。誰もが期待し始めた。完全試合で日本一が決まる瞬間を。

「ヤマイ」コールの中、交代を告げた落合監督


9回表が始まる前、球審に投手交代を告げる落合監督


 8回裏の中日の攻撃中、ベンチ前に本来ならキャッチボールをしているはずの山井の姿はない。そして迎えた9回表、完全試合を期待するファンと、異変を察知したファン、双方のどよめきとも声援とも取れない声が交差し、やがて、「ヤマイ」コールが巻き起こる。だが、グラウンドに姿を現したのは山井ではなく、落合博満監督だった。そして、スタンドからの「ヤマイ」コールをかき消すように、岩瀬仁紀へのピッチャー交代がアナウンスされたのだった。

 9回のマウンドに上がった守護神は「今まで味わったことのない、別のプレッシャーがあった」という。別のプレッシャーとは、日本一がかかった場面であったこともそうだが、それ以上にパーフェクトピッチングの後を受けたマウンドであったことが大きかったはず。それでも岩瀬は、金子誠高橋信二小谷野栄一を三者凡退に抑え、継投での完全試合を達成。中日は53年ぶりの日本一を成し遂げた。

 試合後の会見で落合監督は「山井はもういっぱいだったということなので、代えることには何の抵抗もありませんでした」と語っている。降板した山井も「この試合は個人の記録より、チームの勝利が優先ですから。最後は岩瀬さんにお願いしました」と語るが、8回を投げ球数は86球、打者24人に無安打、無四球。試合中に右手のマメがつぶれていたことも降板理由に挙げられたが、最も注目が集まる試合で、快挙目前。9回を投げたくないはずはなかった。

 この采配は非情采配として報道され、非難の声が渦巻いた。しかし、その一方で多くの監督や監督経験者は落合采配を支持。プロ野球の発展に貢献した人に贈られる正力松太郎賞も受賞し、その選考委員会では日本シリーズでの采配が絶賛されたのだ。

 続投、継投、どちらが正しかったかは分からない。ただ、岩瀬の言葉から一つの結論が浮かび上がる。

「8回の時点で『9回行くぞ』と言われていました」

 すべてはブレない、いつもどおりのオレ流采配だっただけだ。

写真=BBM
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