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【大学野球】7季ぶり慶大優勝の陰の立役者

 

慶大の学生コーチ・石井はチームのため献身的に動き、学生ラストシーズンに優勝と、文字どおり「有終の美」を飾った


 優勝するチームには必ず、有能な裏方がいる。プロ・アマを問わず共通した認識だと思う。

 10月31日、慶大は7季ぶりに東京六大学リーグ戦を制した。チームには部員193人よるグループLINEがある。就任3年目・大久保秀昭監督(元近鉄)は優勝当日、こうメッセージを書き込んだ。

「照屋(塁、主将、4年・沖縄尚学高)、石井(康平、学生コーチ、4年・鎌倉学園高)を中心によく頑張った」

 苦労が報われた瞬間だった。ちょうど1年前、新主将を選出するタイミングで、大久保監督とマネジャーとの間でこんなやりとりがあったという。

「お前らの代、キャプテンいないよな。石井でもいいぞ」

 照屋主将は背中で真摯な姿勢を見せるタイプ。対して石井学生コーチには、言葉で引っ張っていくリーダーシップがあったのだ。

 鎌倉学園高では四番打者。1浪を経て慶大に入学。小幡真之マネジャー(4年・慶應義塾高)によると、入部当初から石井は「学年の取りまとめ役」だったという。2年春の新人戦(2年生以下のトーナメント、現在はフレッシュトーナメント)ではゲームキャプテンを務めるほど、人望が厚かった。「スカウティング」に長ける大久保監督は石井の“神通力”を誰よりも感じており、裏方としてチームを支えてほしいと考えていた。

 右の強打者だった石井は、選手として神宮に立ちたい思いが当然あった。大学2年5月、塩健一郎(4年・慶應義塾)が学生コーチに転身。11月までには、もう一人を人選しなくてはいけなかったが、かなり難航した。年が明けた2月、東京六大学歴代3位の21本塁打を放った岩見雅紀(4年・比叡山、楽天2位指名)ら下級生時代からの主力選手が動いた。

「お前にこそ、スタッフになってほしい!!」

 懇願された石井は、腹を決めた。「緩んでいたチームを立て直したい」と、慶應改革に名乗りを上げたのである。

「一事が万事。私生活が野球にもつながる。時間厳守。『10分前集合』を口酸っぱく言ったんですが、ごまかして、9分50秒で来る主力選手がいたんです。心の余裕のなさ。それがプレーの余裕のなさに直結する。ケチョンケチョンに言いましたよ(苦笑)」

 チームを強くする、良くするために、石井学生コーチは嫌われ役を買って出たのである。

「他大学と比べて、力がないことは分かっている。試合では最終的に1点を上回ればいい。目の前の1点をいかに取っていくか。何が正しいか、正しくないのか。何回も何回もミーティングをしました。幸い、僕の言うことを聞いてくれる。やってきたことは間違いでなかった。選手に感謝したいです」

 慶大のベースの先発オーダーを見ても、甲子園球児は3人しかいない。投手陣にいたっては皆無である。慶大の学生には他大学の高校時代の実績を埋める「考える力」があった。知能を結集させて、束になって勝利に向かってまい進する。193人が一体となれば、ものすごい力になる。グラウンドに立つ学生コーチ以外、データ班も寝る間を惜しんで資料を作成。東大・宮台康平(4年・湘南高、日本ハム7位指名)と高校時代に「左腕2本柱」を形成した山田浩太郎も、縁の下の力持ちとして優勝に貢献したことを付け加えておきたい。

「(優勝という)結果以上に、慶應を強くするための基盤が作れたと思う」

 石井学生コーチは大学卒業後、大手商社に就職する。

「大久保監督は組織改革に尽力し、強い集団へと導いてくれた。人柄も素晴らしい。あのような人になりたい」

 野球で培った人生観を基に、社会におけるリーダーとしての活躍が期待されるエリートだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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