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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

元オリックス・奥浪鏡の胸に残る1つの失策

 

今年1月には昨年6月19日の広島戦(マツダ)での失策(写真)が忘れられないと語っていた元オリックス・奥浪


 1球1球丁寧に。身長176センチ、体重100キロの巨体を動かしながら軽快にボールをさばいていく――。

 今年1月のこと。小谷野栄一らとともに都内で自主トレを行っていた元オリックス・奥浪鏡。昨季、一軍デビューを果たした高卒4年目の期待の長距離砲は、2月のキャンプインを前に、トレーニングを積んでいたが、その日は武器である打撃の練習をする姿はなかった。バットを手にすることなく、キャッチボールで送球動作を確認。その後も、ひたすら三塁でノックを受けていた。

「小谷野さんにお願いして、一緒に自主トレをやらせていただいているんです。グラブさばきに、どんな体勢でも正確に送球する小谷野さんの守備から1つでも多くのことを吸収していきたい」

 ギラギラとした目でそう話すと、続けて口を開く。「守備がヘタのイメージを変えたいんです。ほんの少しでも、上達していれば、それだけでアピールになる」と、オフのテーマに守備力向上を掲げていた。

 そこには苦い思いがある。昨年6月19日の広島戦(マツダ広島)。5回一死満塁から、三塁を守る奥浪の前に高く弾んだゴロが飛ぶと前進して捕球を試みる。だが、グラブをかすめて後逸し、適時失策となった。

「ああいうプレーをしてはいけないし、プロ初安打より忘れられないんです。一軍で試合に出続けるには守れないとダメ。一軍で、多くのファンの前で、プレーするのは楽しかった。あの場所で長くプレーするためにも守備力を上げないといけないんです」

 鼻息を荒くして過ごしたオフを経て、迎えた今季。だが、グラウンド外で事故を起こす。速度超過で1カ月の運転免許停止中の5月、大阪市内の寮近くで車を運転し、オートバイと接触。球団から無期限の謹慎処分を課せられ、野球と離れて奉仕活動を行った。その後、「次の道を歩む準備をしたい」と8月に球団に契約解除を申し出ると、地元の広島に戻って練習を積み、NPB復帰を目指して11月15日のトライアウトを受験。現在、吉報を待っている。

 犯した罪は許されるものではない。置かれた立場も承知のうえ。自らの自己に対する後悔の思いは強いだろう。そんな状況下であっても、再び“あの場所へ”の思いが彼を突き動かせる。今年1月に見せた向上心を映し出したようなギラギラした目で一軍の定着を期していた23歳の来季の行先は、いまだ未定だが、野球人としての時間が再び動き出したことは間違いない。

文=鶴田成秀 写真=佐藤真一
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