侍ジャパンの四番を見事に全うした山川
11月16日から東京ドームで開催された「アジアプロ野球チャンピオンシップ2017」で
稲葉篤紀新監督率いる新生侍ジャパンの四番を務めた
山川穂高(
西武)。初戦の韓国戦で2ランを放つなど、持ち前の長打力を発揮してチームを初代アジア王者に導いた。今大会、オーバーエージ枠で選出されたが、指揮官の「軸を打ってもらいたい」という期待に見事に応えた形だ。
ジャパンのユニフォームを着て、四番として存在感を発揮した山川だが、稲葉監督とはバットで“縁”がある。
富士大1年時、自らにフィットするバットを探している最中に、青木久典監督(現法大監督)が法大野球部時代のチームメート、稲葉監督のバットを手渡した。すぐにボールを打ってみると、感覚は抜群。同型のバットをつくり、大学野球のルーキーイヤーを過ごした。1年後、青木監督から「木製バットは長めのほうがしなりは利く」とアドバイスを受け、試行錯誤して最適な長さを探求して2センチ長くした。さらにグリップや重心を改良。大学2年時に現在も使用しているバットが完成した。
長さは87センチ、重さは約920グラム。平均より長く、重いバットで「ほかの人はなかなか使いこなせないと思う」と語る。ただ一度だけ、プロ2年目の終わりごろ、先輩である
中村剛也のバットをもらい、それを基に自分のバットを作った。しかし、違和感が生じて結局、“稲葉型”に戻したという。愛着のあるバットとともにプロ生活を歩み、そして4年目の今季、78試合に出場して23本塁打を放ち、ついに能力を開花させた。
そんな山川が「あれは僕でも無理」と言うバットがある。それは
中村紀洋(元
DeNAほか)のバットだ。
「僕が1年目で二軍にいたときのことです。DeNAに在籍されていた中村さんが後ろで僕の打撃練習を見ていて。『あとでバットをあげるわ』と声をかけてくれたんです。でも、そのバットがすごい。僕のバットよりさらに2センチくらい長くて、グリップがものすごく太い。まるでノックバットのようで……」
中村剛也になぞらえて“おかわり二世”と称されることの多い山川だが、自身の打撃スタイルに合致するのは
落合博満(元
中日ほか)であり、中村紀洋だ。両者とも、アウトステップしながらボールをとらえ、スタンドまで運ぶ。それは山川も同様だ。
中村紀洋が山川にバットを与えたのも、きっと自分と同類の“匂い”を感じたからだろう。究極の目標として三冠王も公言する山川。侍ジャパンで貴重な経験を積み、来季、さらにどこまで成長するか楽しみだ。
文=小林光男 写真=小山真司