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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

141試合の「待機」こそ王者の強さの源

 

城所の視線は早くも来季へ向けられている


 まさに守備のビッグプレーだった。ソフトバンク楽天のCSファイナル第3戦。連敗で迎えたソフトバンクは二番・中堅に城所龍磨を配した。今季、レギュラーシーズンで2試合しか出場していない守備・走塁のスペシャリストを大胆に先発起用すると、城所はその期待にプレーで応えた。

 3回に聖澤諒の左中間への当たりをランニングキャッチでもぎ捕ると、5回にはウィーラーが放った左中間への打球をフェンス際で鮮やかにスライディングキャッチ。捕手が外に構えていたためやや右中間寄りにポジションを取っていた城所は、先発・和田毅のストレートが内に入ったと見るや、素早く中堅方向にポジションを修正。ウィーラーが振り出すとともにスタートを切ると、捕球ポジションがアンツーカーにかかるほどフェンス際だったこともあり、スライディングキャッチに切り替えてドンピシャの捕球を披露した。瞬時の好判断の連続の末に生まれた鮮やかなプレーだった。

 そんな球界屈指の外野守備を支えるこだわりのグラブと守備への意識について話を聞く機会があった。じっくりと言葉を交わすのは昨季、交流戦前後で打棒が爆発したときにインタビューをして以来。1年半前は言葉を選ぶように話していたのが、今回はよどみなく楽しげに語ってくれた。やはり、強いこだわりを持つ守備の話題になると、口も滑らかになるのだろう。

 自軍の投手の特徴、ストレートの球威、球速、変化球の球種、変化の仕方、その日の調子をインプットした上で、相手打者の特徴、調子を加味する準備にはじまり、投手が投げたコースを見て瞬時に打球方向を予測し、爆発的なスタートを切る。そんな一連の守備のこだわりを解説しながら、「だいたい投げたコースで飛んでくる方向は決まるんですよ」とこともなげに口にする。城所の1球1球への反応と対応は、まさに技術と経験が詰まった職人芸と言えるだろう。

 冒頭で記したように城所は今季、レギュラーシーズンで2試合しか出場機会を得られなかった。「キドコロ待機中」のフレーズは野球ファンにおなじみとなったが、今季はポストシーズンを迎えるまで実に141試合もひたすら「待機」していたことになる。

 そんな男がCSファイナルの大舞台で突如、先発起用され、守備のビッグプレーでステージの流れを引き寄せる勝利に貢献する。ちなみに城所はこの試合で2本の二塁打を放ち、打線を活気づけてもいる。確かな実力と経験、そしてこだわりを持った男が「待機」できるチーム。それが現在のソフトバンクであり、強さの源泉だ。ハイレベルな城所の守備への意識とプレーをあらためて目の当たりにすると、ソフトバンクの日本一奪回は必然だったように思えてくるのだ。

文=杉浦多夢 写真=BBM
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