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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

元ロッテ・田中英祐にしかできない“仕事”

 

京大時代の田中英祐


 2017年の野球シーズン、最も心に突き刺さったのが、この談話である。

「この気持ちは、東大野球部にいた人にしか分からない。東大に合格したときよりも、うれしい」

 今秋のリーグ戦(対法大)で、15年ぶりの勝ち点を挙げた直後の東大のエース左腕・宮台康平日本ハム7位指名)の率直な感想である。

 野球は相手がいて、初めて成り立つ団体競技。例えば、フィギュアスケートや体操など、努力の成果が、そのまま結果(得点)に結び付くものではない(ただ、優勝を競うライバルという、プレッシャーも当然、抱えている)。

 だから、野球は難しい。宮台が言いたいのは、こういうことだ。入試は(当然、東大に合格するだけの潜在的な学力が大前提)、勉強の成果が結果(合格)として得られる。そこに至るまでには大変な苦労があるが、敵チームに勝たなければいけない野球のほうが、はるかにハードルが高いと訴えたかったのだろう。当事者にしか理解できない心境である。

 そこで、話題を移す。田中英祐である。京大から15年ドラフト2位でロッテ入団。3年目を終え、一軍未勝利のまま戦力外通告を受けた。現役続行か注目されたが、超一流商社への入社が決まったという。

 大正解のセカンドキャリアである。この秋、あるスカウトから、田中のファームで投げている映像を見せてみせてもらったことがある。京大時代の躍動感あふれる投球を知る者としては、信じがたい姿だった。当時は強打者に真っ向から向かっていく姿勢が持ち味だったが、その映像からは何か、自信がないように見えた。相当、悩んだのだと思う。

 戦力外の段階で、「引退」は覚悟していたかもしれない。しかし、この3年間は代えがたい財産。プロ野球を知っているか知らないかで、今後のビジネスチャンスは大きく広がると思うからだ。仕事も相手(取引先)があって、信頼関係を得て初めて成立する厳しい世界。しかし、田中には難関入試、そして、ある意味、京大合格よりも競争の激しいプロ野球で生きてきたキャリアがある。どんなことにも屈しない第二の人生、明るい未来が待っていると言える。そして、いずれは「京大出身初のプロ野球選手」と「超一流サラリーマン」しての肩書を利用して、経験談を発信してほしいと思う。これは、田中にしかできない仕事だろう。

 華やかな宮台入団の一方で、田中にも最大限のエールを送りたい。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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