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沢村賞は先発完投型投手のためのもの?

 

6月13日のソフトバンク戦で1失点完投勝利を挙げた巨人菅野智之。今季はキャリアハイの6完投4完封で17勝をマーク、沢村賞を初受賞した


 プロ野球創設期の大投手、故・沢村栄治氏(元巨人)の功績を讃えて1947年に制定された沢村賞は今年度で71回目を迎え、巨人の菅野智之が初受賞した。長い歴史のある同賞だが、来年度より選考基準に“補足”として新たな項目が加わる可能性があることをご存知だろうか。

 同賞の歴史をひも解くと、1947年の制定後、1950年のセ・パ分立でセ・リーグの中からその年に活躍した最高の“先発完投型投手”に贈られることとなり、1989年からパ・リーグにも拡大されて全球団が対象に。選考基準ができたのは1982年のことで、以下の7項目は現在まで大きな変更はない。(1)15勝以上、(2)奪三振150以上、(3)完投10試合以上、(4)2.50以下の防御率、(5)投球回数200イニング以上、(6)登板25試合以上、(7)6割以上の勝率。

 これらに来年度より補足項目として加わるのが「沢村賞の基準で定めたクオリティー・スタート(QS)の達成率」。沢村賞の基準によるQSとは「先発で登板した全試合に占める、投球回数7回以上で3自責点以内(一般的には6回以上を投げ、3自責点以内)」と定められ、選考時の“参考記録”として考慮される程度のものではあるものの、時代に即した対応といえる。なお、今年度受賞の菅野は選考基準の(1)、(2)、(4)、(6)、(7)の5項目をクリアしており、沢村賞基準では19QS、達成率は76パーセントだった。

 投手分業制が当たり前となり、リリーフにもお金をかけて戦力を整える現在は、(球団によっても、立場によっても異なるものの)先発投手にはまず中6日ないし中5日で1年間先発ローテーションを守ることが求められ、登板日には6〜8イニング、100球をめどに投げて試合を作ることがよしとされる。もはや(3)、(5)の項目をクリアすることは至難の業だ。

 これらはここ数年の話ではなく、補足項目の追加はむしろ遅過ぎるようにも感じるが、2013年に全項目をクリアした金子千尋(オリックス)以降、「10完投」をクリアできた投手が現れず、70回目の節目の年だった昨年度、広島クリス・ジョンソンが4項目(1、4、6、7)のクリアのみでの受賞であったこと、今年度の菅野も(3)、(5)を逃していることが決定打となり、QS設定となったようだ。なお、2013年の金子は田中将大(当時楽天、現ヤンキース)が24勝無敗(8完投)の大記録を作ったため、沢村賞の受賞は逃している。

「日本のプロ野球でNO.1の投手に贈られる賞。ここのところの沢村賞はベスト1のピッチャーを選ぼうということで協議している」と選考委員会の堀内恒夫委員長が明かしているが、過去の受賞者を見ても、もはや「最高の先発完投型投手に与えられる賞」ではなくなったようだ。いずれは、MLBのサイ・ヤング賞(各リーグ1人ずつ)のように「その年に最も活躍した投手」とし、リリーフ投手にも対象を拡大するときがくるのだろうか。

文=坂本 匠 写真=BBM
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