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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

サインに記す“1文字”。オリックス・吉田正尚が心に刻むこと

 

吉田正尚の豪華な打撃を2018年は1試合でも多く。そう願うファンは多いはずだ


「アイツの部屋は、バットまみれ。使っていないヤツも折れたバットもあって、球場に置けないらしいんだ」

 オリックスの選手寮『青濤館』の宮田典計寮長に話を聞いた際、吉田正尚の部屋について語っていたことだ。本人にバットについて聞いたことがあるが、そこに溢れんばかりのバットのワケがあった。

「何が良いかなと、迷っているわけではないんです。自分に合うバットを探しているんです」と、メープル、アオダモ、ホイトアッシュと木材の違う3本を使用。バットに囲まれる自室は、向上心と探究心の象徴だった。

 打席に入れば、迷いを感じない豪快な“フルスイング”を披露。いまや代名詞となっている“豪快さ”だが、言葉を交わせば柔軟な思考を具現化しようと試行錯誤する“器用さ”が垣間見える。そもそも、今でこそ、あまり否定しなくなったが、入団当初は“フルスイング”の表現を好んではいなかった。

「フルスイングではなく『強く振る』という感覚なんです。素振りのときに(ボールを)当てにいくスイングはしない。『強く振る』。だから、打席でもそのスイングをすることを大事にしているんです」
 
 打撃論に話が及ぶと、強調するのは“幅”を広げること。どのコースのボールに対しても“強く振って強い打球”を飛ばす――。その中で、どれだけ引き出しを増やしていけるか。「打率、打点、本塁打。どのタイトルとかではなく、獲れるタイトルはすべて獲りたい」と語っていたことがあるが、それは漠然とした目標ではなく“幅のある打撃”を志すがゆえ。だから、腰を負傷しても“強く振る”ことは決してやめなかった。

 そんな背番号34の心意気が表れる言葉が1つある。それは、自身のサインを書く際に添える1文字“頂”だ。意味を聞くと「好きな言葉」と答えたが、自分にとって明確な“頂”、すなわち「ゴールはない」ときっぱりと言い切る。

「『頂に立つ』と言う意味ではなく、『頂を目指す』という意味なんです。打席に立てば、疑問は次から次に出てくる。だから常に上を目指し、その中で多くのことを感じて吸収していきたいんです」

 そんな強い思いがあるからこそ、打撃技術ではなく、故障に悩まされた2年間に不甲斐なさが募る一方だったのだろう。12月6日の契約更改後の会見で「この2年は思い描いていたのと違う」と悔しさが漏れた。

「規定打席にいかなければタイトル争いもできない」

 打席に立たねば何も得られない。“タイトル獲得”ではなく、“タイトル争い”という表現が「常に上を目指すこと」を心がける背番号34らしかった。

「テレビ画面越しでも、ボクの打席を見て何かを感じてもらえる選手になりたい。それが、球場に足を運ぶきっかけになると思うんです。みなさんが言う“フルスイング”が、そうなれればいい。魅力のある選手になりたいですね」

 心に刻む“頂”の文字。だからこそフルシーズンで一軍の場に。“3年目の正直”へ、2018年も代名詞“強く振る”を貫く。

文=鶴田成秀 写真=松村真行
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