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プロ野球仰天伝説

【プロ野球仰天伝説14】「3センチ外れている」とつぶやいた榎本喜八の驚異の選球眼

 

長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。

だれもが一目置いていた実力


川上哲治も「天才」と評する打撃だった榎本


 早実と毎日の先輩・荒川博を師匠とした荒川道場の一期生である榎本喜八。合気道を学び、心と技の両面からバッティングを追究した男だ。

 1年目からレギュラーとなり、60年と66年に首位打者。その打撃は、ムダな動作をなくし、人間本来の力を引き出す自然体のスタイルだった。

 ただ、「バットを自分の腕のように自由自在に振る」「心が正しくないと野球はうまくならない」「自分の中に球を引き込み、腹の中でバックスイングする」など、その語録は合気道を知らない人間には奇異に映るものばかり。突然、ベンチで坐禅を組んだり、極端なまでに求道的な姿勢でいたりするなど周囲から誤解されることも多かった。

 しかし、あの川上哲治(巨人)が「打撃の天才というなら僕ではない。榎本だ」と言ったように、その実力にはだれもが一目置いていた。

 西鉄の稲尾和久が生涯で榎本にだけフォークボールを投げ、南海の捕手・野村克也は「打席ではすさまじく集中し、ささやきがきかない。際どいコースを審判がストライクを取ってくれた後、榎本が指を3センチくらい広げ、『これだけ外れている』とポツリ。実は私もそれくらい外れていると思っていた。そこまで正確に見ているのかと思って、びっくりした」と語っている。

榎本喜八(えのもと・きはち)
1936年12月25日生まれ。東京都出身。早稲田実から55年に毎日(のち大毎、東京、ロッテ)へ。1年目から一塁の定位置をつかんで新人王に輝いた。60年、打率.344で首位打者に。66年にもリーグ最多の167安打で打率.351をマーク、2度目の首位打者になっている。68年に史上最年少31歳7カ月で2000安打を達成。72年に西鉄へ移籍し、同年限りで現役引退。2012年3月14日死去。主なタイトルは新人王、首位打者2回、通算成績2222試合、2314安打、246本塁打、979打点、153盗塁、打率.298。

写真=BBM
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