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追悼・星野仙一

追悼企画15/星野仙一、野球に恋した男「独占!星野仙一と男の60分 後編」

 

 星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。
 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略)

オレはウソをつくにも本気でつく


監督1年目はキャンプのみ、このユニフォームだった


 今回も87年3月、『独占!星野仙一と男の60分』という記事からの抜粋だ。

──管理は必要と。

星野 僕はね、人生、野球選手、管理する側もこれから何年も生きていかなければならない。いろいろなことが起こり得ると思う。いいときも悪いときも、哀しいときも、うれしいときもいっぱいあると思うの。だけど、人間、喜びを求めて働いてるわけでしょ。それには、明るくなきゃいけないわけです。前も今も、あしたもあさっても。明るい生活をするためには、自分はなにをすべきか。一生懸命、そのものを追求していかなければいけない。みんなが一緒にそれを追求していくためには管理が必要と思うんだ。

──叱ることも。

星野 叱る場合には真剣に叱るよ。ウソをつく場合も真剣にウソをつかなきゃいかん。

──星野仙一もウソをつく。

星野 そりゃそうですよ。やっぱりウソも方便と言うじゃないか。ウソをつく場合でも真剣にウソをついてりゃ、本当になっちゃう。真剣にうそをついてあげれば、ウソと分かったときも、相手の気持ちがわかるもんさ。ああ、こうこうだったからウソをついたんだなって。その代わり、中途半端なウソをついたら、わかったときに腹立ちますよ。あのヤロー、ふざけやがって、オレをだましやがってって。ウソがだましになり、だましは罪になってくるわけでしょ。

激しさは日々の鍛錬の精神から


──キャンプのバレンタインデーでコーチにチョコレートを配ったとか。

星野 もらえんやつが多いものでね。オンナにモテなくて。オレみたいにオンナにモテるやつはいくらでも、何十個でも来るけどさ。

──「いつもありがとう」とメッセージがついていたそうですが。

星野 (笑)これもひとつのシャレでね。シャレ、シャレ。

──キャンプでは激しさをぶち上げました。

星野 鍛えてなきゃ、激しいもの、できませんよ。上っ面の激しさなんて、すぐポッと消えちゃいます。

──シゴきあげたんですか。

星野 いや。いつもひとつの動作、ひとつのことを丁寧にやれ! って言ってた。手を上げるにしても、ピシッと上げろと言ってる。小さなことでも全力を尽くしなさい。それが積み重ねなんだからってね。これを一生懸命やっていれば、ものすごく体力つきますよ。日々鍛錬というのはこのことと思う。この気持さえあれば、技術はそなわります。

──ほかのチームは気になる?

星野 僕の野球は、よそを気にするなということです。よそを気にするまでのレベルじゃないから。自分の力をもっとよく知りなさいということです。

勝利よりでかい夢がある


──投手陣は絶対数が足りないのでは。

星野 オレはそんな泣きごとは言えないの。与えられたもので闘っていかなきゃ、しょうがない。泣きを入れるのは簡単さ、泣きたいときもあるさ。でも、泣いたら終わりよ。泣きたいときはひとりで泣きゃええさ。自分の信頼を置ける人の前で泣き、吐き出せばいい。それ以外は泣いたらいかん。ま、最後はなるようにしかならん。この考え方、オレはな。

──開幕ダッシュに失敗したら昨オフからの注目度が裏返しとなって振りかかるという声も。

星野 振りかかる火の粉は自分で払いのけなきゃ。これだけ騒がれたら、新人監督だ、ゼロからスタートなんて口が裂けても言えない。いいよ、分かったよ、50点からいこうじゃないかという気持ちですよ。結果がよければ選手、悪けりゃオレ。こんな分の悪い商売はないと思うけどね。これも運命さ。自分からこうしてくれと言ったわけじゃない。周りからそういう雰囲気になってきたんだから、それはあえて受ける。

──相当の覚悟。

星野 受けるまではそうまでは思ってなかったけどね。ただ、引退してからの話だけど、野球選手出身であり、いったんこの商売を志した以上は、いつかは誰かと勝負したいなあとは思っていた。(山本)浩二とかブチ(田淵幸一)とか、我々の年代の仲間とね。お互いもうバットとボールでケンカもできなくなったけど、今度は頭とか心で、おもしろおかしく丁々発止とやってみたら。野球ファンも、それを待ち望んでるんじゃないだろうかと思った。

──プロ野球の世代交代。

星野 僕は、なまいきなことを言うようだけど、評論家をやってみて、今のプロ野球界は狭い世界のような気がしてならなかった。自分の周りだけうまくやりゃいいやという。しかし実際、プロ野球は社会の隅々まで入り込んでいる。それがわかった。それがわかったら今のプロ野球じゃ……。今のこの壁を作った狭い感覚ではプロ野球はダメになってしまうんじゃないか。もっと明るく、これがスポーツなんだ、されど勝負なんだというものがなくちゃいかんと思う。

──というと。

星野 野球を知らない子ども、女性、男でもそうだけど、そういう人たちになんらかの興味を持ってもらう。そういうことが必要じゃないかと思うんだ。ファンにへつらい過ぎることもないと思うけど、本当に野球が好きな、スポーツが好きなファンのために、いいものにしなくてはいけないんですよ。

<次回へ続く>

写真=BBM
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