週刊ベースボールONLINE

追悼・星野仙一

追悼企画16/星野仙一、野球に恋した男「88年、監督として初のリーグ優勝」

 

 星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。
 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略)

“ぬるま湯”からの脱却


胴上げされる星野監督


 1回目の中日監督1年目は夏場から崩れ、優勝を逃したが、2年目の1988年はリーグ優勝。昭和最後の王者となった。

 今回はその優勝決定シーンから振り返ってみよう。

 1988年10月7日、ヤクルト戦だった。

 この日、ナゴヤ球場はドラゴンズブルーのうねりが包まれ、試合開始から異常なほどのハイテンションになっていた。

「あとひっとりッ!」

 9回裏、球場を揺るがすコールを背にマウンドの守護神・郭源治が泣いていた。最後は秦真司相手にシンカーで空振り三振。11対3の勝利で、ドラゴンズにとって6年ぶり4度目の優勝が決まった。

 まず郭に捕手の中村武志が抱き着く。その後、五色のテープの滝の中を選手、首脳陣が走る。

 そして、背番号77の星野仙一監督が宙に舞う。ただ、ファンが次々乱入。その数、およそ2000人で19人が負傷する騒ぎになり、グランドでのセレモニーは残念ながら中止となった。

 86年オフ、39歳の星野は古巣に監督として復帰。

「こんなぬるま湯に浸っている限り、ドラゴンズはダメになる。戦う意味が分かっていない」

 まず、かわいがっていた抑えの牛島和彦らを放出し、ロッテから三冠王・落合博満を獲得。

「プロとはこういうものと分かってほしかった。勝つためには小松(辰雄)でも宇野(勝)でも必要あれば出す。自分をスタート思ってあぐらをかくことは許されない」

 さらに厳しさを前面に出して選手を鍛え上げ、中村武志をはじめ、その鉄拳を浴びた者は少なくない。だが、それは基本的なプレーをミスしたときと「上のレベルを目指そうとしなかったとき」に限られ、怒った選手には必ずもう一度、チャンスを与えた。それが分かっていたからこそ、選手は必死に星野監督に食らいつき、また、兄にように慕った。

日本シリーズで西武に敗退も……


 88年のVは、落合効果だけではない。最終的には打率.293、32本塁打、92打点。中盤に調子を上げ、終盤の快進撃を支えたのは事実だが、大不振に陥り、6月に四番を外され、ナゴヤ球場で「1億3000万を返せ」とヤジられたこともある。

 むしろ全員一丸の野球だった。

「全員の心が勝つ、という一つの目標に集中しない限り、優勝はできない」

 そう言い続けた星野監督の徹底した意識改革こそ、優勝の最大の要因だった。

 抑えの郭は先発から星野監督の指名で抑えとなった。

「新聞なんかには“あんな気の弱い男をクローザーにするのはどうか”なんて書かれたけど、源治にはスタミナがあったし、気が弱いどころか乗っけてやったら、その気になってグイグイ行くところがある男なんです」(星野)

 MVP候補とも言われたが、郭は「それは監督さんにあげるよ。あの人ほど、僕らに勝たせてあげたいと思っている人はいないよ」と話していた。

 名古屋市内のホテルに移り、優勝慰労会。このときは昭和天皇の御病気もあり、ビールかけは自粛だった。

「優勝は9月くらいから意識した。でも優勝と確信したのはマジックが1になったときだよ。胴上げはやっぱりいい気持ちだったよ」

 満面の笑顔の星野監督。いつも色紙を頼まれると、必ず「夢」と書くが、それが実現した日だった。

 一方のパは、あの「10.19」の年。最後まで優勝の行方はもつれたが、ドラゴンズの相手は森祇晶監督率いる西武となった。

 結果から言えば、日本シリーズは負けた。1勝しかできず、しかも最後の第5戦は6対6の延長11回裏、サヨナラ負けだった。

 狂喜乱舞する西武ナインと対照的にベンチでうつむいていた竜のナインに星野監督は「よく見とけ!」と怒鳴る。

そして全員がベンチ前に並ぶと、

「胸を張るんだ」

 今度は、鋭く小さく叫んだ。

<次回へ続く>

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング