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【週ベ アーカイブ01】松坂大輔 大フィーバーの1年目キャンプ

 

今年で60周年を迎えた週刊ベースボールの過去の記事を紹介。今回は1999年2月、西武に入団した松坂大輔のキャンプリポートだ。

笑顔の裏に、したたかなプロ意識の芽生え


松坂のブルペンの投球を見た東尾監督は「ワクワクしてくるな」と笑顔


 衝撃的な“ブルペンデビュー”だった。ファン、マスコミの注目を一身に浴びて、松坂大輔の剛球がうなりを上げる。高知キャンプ第1クール3日目の2月3日、春野球場隣接の特設ブルペン。一度マウンドに上がると、もう高まる気持ちを抑え切れないでいた。が、その感情は決して表に出さない。18歳のゴールデンルーキーは、何食わぬ顔でいきなりMAX140キロをたたき出した。

 プロの“初投げ”はセットで8球、ワインドアップで91球。けん制練習も含めると球数は120球を超えた。そんな松坂のピッチングに魅せられたのが東尾修監督だ。開口一番、興奮を抑えるように「ワクワクしてくるな」。周囲のだれもが黄金ルーキーの快速球に心を踊らされた。初めて松坂の相手を務めたベテラン捕手・伊東勤が「あれじゃ高校生は打てないよね」とあ然とする横で、松坂自身は「まだ70パーセントの力です」と平然としたものである。

 これはもう“余裕”以外の何ものでもない。確かな自信に裏打ちされた余裕なのだろうか。だれの目にもそう映っている。

 ところが、その余裕は表向きの松坂だった。「新人王」を大目標に置く18歳ルーキーにも戸惑いは当然ある。松坂の一挙手一投足にマスコミは賛辞の嵐だが、ルーキーの一面を見せたのは投内連係のサインプレーのとき。マウンド付近にできる投手陣の輪の中で、松坂はこうポツリと漏らしていた。

「緊張しています」

 初めて迎えたプロのキャンプ。見るもの聞くもの、すべてが初めてのことばかりで、実は余裕などあるはずもない。「大輔が『緊張する』って言うから、『それでいい』って、僕らが声をかけてやるんです。今は何事も全力で、一生懸命やることで精いっぱいですよ。マスコミの人には分からないかもしれないけど、それが手に取るように分かる」と打ち明けたのはベテラン・橋本武広。弱冠18歳の決して表面には出ない心理だ。

 妥協しない。とにかく一途に練習に取り組む。その姿勢を見れば橋本が言う言葉もうなずけるが、練習中に垣間見せた松坂の意外な一面がもう一つある。

 遠巻きには分からなかったが2月2日、同じく投内連係で「野手に速いボールを投げるのもいいが、相手の身になって投げろよ」と鈴木康友守備・走塁コーチから注意を受けたときだ。松坂の表情が一瞬変わったという。「コーチに言われてムッとしたというのか、あれは大輔の反骨心なんでしょうね」と別人のような松坂の顔に驚いたのがデニー友利だった。

 練習中に時折のぞかせる笑顔も松坂のトレードマーク。しかし、デニーによれば「口を真一文字に結んで『そこまで言うのなら、だれにも(文句を)言わせないプレーをやってやろうじゃないの』っていう雰囲気なんです。あれにはちょっと驚いたなあ。自分の信念を持っているんですよ。相当頑固ですね」。童顔の裏にはすでに、したたかともいえる“プロ意識”が芽生えているのだ。

うなぎ上りの『松坂株』


キャンプ中も常に報道陣に囲まれていた


 徐々に大物ルーキーの片りんを見せ始めた。今キャンプで全身から発散する、そのオーラに松井稼頭央西口文也のレオが誇る投打の二枚看板もかすむほど。休日前日の2月4日も周囲の喧騒をよそに主役を演じた。

 中嶋聡捕手を相手にカーブを交えて75球。走者を一塁に置いたけん制プレーにも参加するなど仕上がりは急ピッチだ。第1クールの最終日とあって疲労も蓄積されていると思いきや「ここで無理しても仕方ないでしょう。ここ(球場)から宿舎まで走って帰れますよ。体は、まだ余裕です」と記者団に笑顔でこたえた松坂。マスコミの前では“余裕”の文字をよく口にするが、この日はそう言った直後に「また、こんなこと言うと新聞に『軽口たたいた!』と書かれますね。余裕なんてないっちゅ〜の」とおどけてみせた。

 こんな口調で記者団と言葉をかわすのも珍しい。だが、これも松坂ならではだ。思えばキャンプ前にこうつぶやいている。

「甲子園のときも僕って、毎日テレビに映ると思うと、つい目立っちゃおうとするんです。アピールも大事ですから、無理しなければいけないところは無理する覚悟もできてます。でも、それ以外はマイペースでね」

 キャンプでの松坂をじっくり観察していると、その強弱の使い分けが実にうまいのだ。

 マスコミとの対応もしかりである。このメリハリも、プロで大成するための、そしてスーパースターになるために一つの大事な要素だろう。13年前、この同じ高知・春野球場でプロ初のキャンプを迎えた清原和博には、とてもこの色は出せなかった。

 野球用具へのこだわりも、着々とスーパースターへの階段を上り始めたゴジラ・松井秀喜とそん色ないという。「独自性を追求するのは、球界一用具にこだわる松井選手と同じですね。定番のものでなく常に、自分が最高の状態で臨めるよう独自の機能を求めている。プロ意識に徹し切っています」と担当者。本格ピッチング開始に合わせ、キャンプ第3クール初日の2月11日には従来よりも一回り大きいニュー・グラブも届くことになった。

 松坂の剛速球を目の当たりにして、東尾監督は「素材がいい。あのスピードボールは持って生まれたものだ」と絶賛した。楠城徹スカウト部長は「腕の振りが速い。球を長く持てるから重い球が行くんだ。あれは天性のもの。あの江川卓(元巨人)より速いよ」とまで言い切っている。

“松坂フィーバー”に沸き返る高知キャンプ。うなぎ上りの『松坂株』はいったいどこまではね上がるのか。「この時期に調子を上げてもしようがない。あくまでオープン戦、公式戦開幕に向けて仕上げていきたい」という松坂。マイペースの中に漂う自信――。ついにベールを脱いだレオの「背番号18」がひと際大きく見え始めた。

(週刊ベースボール1999年2月22日号)

写真=BBM
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