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高校時代からプロでの飛躍を予感させていた楽天・西巻賢二

 

楽天・西巻は昨年9月のU-18W杯で攻守走にわたり、持ち味を存分に発揮していた


 昨年9月11日、カナダ・トロント空港。W杯で銅メダルを獲得した侍ジャパンU-18代表は、サンダーベイからの経由地で東京・羽田行の搭乗を待っていた。

 この間、10分間の取材対応があった。この遠征は多くのメディアが箱乗り(同便)。1カ月半後のドラフトで1位指名を受ける早実・清宮幸太郎日本ハム)、履正社・安田尚憲ロッテ)、広陵・中村奨成広島)の「BIG3」に取材は集中していた。

 そんな“喧騒”を避け、西巻賢二の下へ向かった。仙台育英秀光中では3年夏に全国優勝。仙台育英高では1年春からベンチ入りし、同夏の甲子園で準優勝を経験している。3年時は主将として春夏連続で甲子園出場。同世代の中でもキャリアは突出していた存在だが、スターぞろいの高校日本代表では、西巻でさえ、埋もれてしまう状況であった。

 当時、168センチ73キロ。自分のできることは限られる。さすが、場数を踏んでいるだけはある。決して、背伸びをしなかった。野球は、四番打者をそろえるだけでは勝てない。西巻は自らの働き場所を探した。

「能力の高い選手の集まり。上には上がいる。自分の与えられた役割の中でどう、持ち味を出していくかを考えていました」

 コンディションは最悪だった。広陵高との甲子園準々決勝で、打球が右手親指の付け根を直撃。無念の途中退場で、チームも惜敗した。侍ジャパン合流以降も国内の練習試合には出場せず、患部はテーピング。当然、大会期間中は明かされなかったが、実は骨にヒビが入っていたという。

 バットを本格的に振ったのはカナダ入りして2日目の練習。この段階で「2割程度」だったが、何とか開幕に照準を合わせた。メキシコとの一次ラウンド初戦こそベンチスタートも、二遊間の守りを固めたい侍ジャパン・小枝守監督の意向で、アメリカとの第2戦からは先発出場した。不慣れな二塁守備でも好守を見せ、打撃でもバントなど小技を絡めチームに貢献した。

 大会前から「指名されるかどうか分かりませんが、勝負できるときに、勝負したい」と、プロ志望を表明していた。しかし、スカウトの評価は高いとは言えなかった。やはり、ネックとなったのは体格面。そして、木製バットでの打撃でも疑問符が拭えないとの声が多かった。

 ドラフトでは楽天から6位指名。西巻は小学校6年時に楽天ジュニアでプレーした縁があり、地元でプロ野球人生をスタートさせた。順位は関係ない。入ってからが勝負――。西巻はプロとして最も必要とされる「反骨心」の塊。楽天の判断は、大正解だった。

 さらに、職人気質の西巻には「対応力」がある。カナダでのW杯においても、外国人と比較して、パワーでは到底、及ばない。そこで生きる道を探す。

「打って、守って、走って、野球で必要な要素をすべてやる。それが、自分が求められているプレーだと思う」

 総合力。プロでもそのレベルに順応するために考え、行動した。物怖じするタイプではなく、状況判断にも優れる万能選手。新人合同自主トレからアピールすると、キャンプでは一軍に抜てきされ、高いポテンシャルを発揮。楽天は正遊撃手の茂木栄五郎が故障で出遅れているため、「開幕スタメン」との声が挙がるほど、だ。

 どんな新人でも、いずれは壁にぶつかる。西巻も、例外ではないはずだ。とはいえ、18歳にして、乗り越えるだけの多くの引き出しを携えているように思える。

 昨年9月、トロント空港で見せた、自信に満ちた表情。広島・菊池涼介ソフトバンク今宮健太のような仕事人タイプの選手を目指しているという。あの目力こそが、プロでの飛躍を予感させてくれる。

文=岡本朋祐 写真=早浪章弘
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