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京田の「相棒」長沢吉貴が日大を引っ張る

 

誰よりも京田のそばでバットを振った長沢


 1月下旬、中日京田陽太の取材中、雑談のなかで大学時代の話に触れた。記者がとある日大の後輩選手の名前を挙げると、京田は「めっちゃ仲良いっすよ!」と食いついた。後輩というより、チームメートというより、相棒といったほうがふさわしいか。日大時代、自主練習の相手はいつもその選手だったという。日大・仲村恒一監督が「誰よりも練習した」と断言する京田の膨大な練習量だが、それを同じようにこなした。仲村監督はその選手について、こう話す。「京田がプロになってから、彼のことをよく言っていたのが『あいつにもっと話を聞いておけばよかった』と。ずっと二人で一緒にやっていましたから」。

 そのとある後輩選手とは、今秋のドラフト候補に挙がる、長沢吉貴(佐野日大高・新4年)だ。京田の2学年後輩にあたる。172センチ、62キロと決して体は大きくないが、「京田より速い」と評判の俊足と、一部リーグ5シーズンで現役最多の通算79安打を積み上げた巧打を併せ持つ外野手だ。

 京田と長沢について、印象的な試合がある。京田が4年生だった16年秋の東都大学リーグ戦、「勝てば優勝」で迎えた東洋大との大一番。日大は2対3のビハインドで9回裏を迎えた。七番・八田夏(履正社高・新4年)の中前安打に始まった最終回の攻撃は、右中間を破る一番・上川畑大悟(倉敷商高・新4年)の同点適時二塁打、そして一死二、三塁から二番・長沢が右翼前にサヨナラ安打を放つことで決着した。サヨナラのとき、ネクストバッターズサークルには、三番・京田。「あのときはネクストで、回ってくんな、回ってくんなと願ってました」。のちに京田は、苦笑交じりにそう話した。この試合は京田のドラフト指名から5日後。観客はどうしても、京田のサヨナラ打を期待した。ヒーローの座を長沢がさらったように見えるが、注目、期待、責任……さまざまな重圧を抱えてネクストで待機する京田を、長沢が救ったのだった。

 「だからこそ練習するんでしょうね。不安で、自信が欲しくて」。仲村監督は、京田のこの“弱気発言”についてこう分析する。京田が大学日本代表に選出された16年夏以降は特に「バカみたいにバットを振るようになりました」と言う。大学ジャパンには、「大学ナンバーワン遊撃手」の評価を京田と二分していた吉川尚輝巨人)がいた。もっとも自信を持っていた守備で正遊撃手の座は守ったものの、打順は主に七番か九番。一方、吉川は二塁を守り、五番打者として結果を出した。京田の「負けん気」は、それからの練習量に如実に現れた。もちろん、自主練習の相手は長沢だ。

「京田のそういう姿勢が今、チームに引き継がれています。去年は本気でそれをやる選手がなかなかいなくて、成績もあまり付いてこなかったんですが……」。昨秋の二部降格を冷静に受け止める仲村監督の目に映るのは、悔しさを糧にバットを振り込む先輩をそばで見ていた、京田の後輩たちの姿。優勝を決めた試合、サヨナラ勝ちを引き寄せた先述の八田、上川畑、長沢は、当時2年生でベストナイン(それぞれ捕手、二塁手、外野手)を獲得した。その3人が最上級生となる新チーム。八田は主将、上川畑は副主将としてチームをけん引していく立場に。長沢は、「京田が残したものを、今度は彼が、中心になって他の選手に伝えていく番」と仲村監督から期待されている。ドラフト指名から、開幕スタメン・初安打、新人王まで……京田のサクセスストーリーは、ストイックな姿勢から生まれた。そんな先輩に「あいつにもっと話を聞いておけばよかった」、そう言わしめるポテンシャルもある。今度は長沢が、背中でチームを引っ張る番だ。

文=依田真衣子 写真=田中慎一郎
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