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特別対談

元読売ジャイアンツ・鈴木尚広×ボクシング・八重樫東が対談「意気投合した感性の重要性」

 

ボクシング・スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す八重樫東選手(35)と、代走で日本記録の通算132盗塁をマークした元巨人鈴木尚広氏(39)の対談が実現した。初対面だったが同じ東北出身、感性を重視する考えで共通する部分が多く、対談は大いに盛り上がった。試合に向けて心と体を整える方法論、互いのトレーニング理論、プロフェッショナルのこだわりを語ってもらった。

試合に向けて心と体の準備の仕方


鈴木尚広氏(左)、八重樫東選手


――今回が初対面ですが互いの印象は?

八重樫(以下、八) 野球はそんな詳しくないですけど、職人というか。純粋にかっこいいです。極める。一つのことに特化できる。勝負どころ(の代走)で絶対決めなきゃいけないところで仕事をやってのけるのがすごい。どのスポーツも一緒だと思います。体もそうだけどメンタルタフネス。求めている期待値が高いのにやっていけるのがすごいです。

鈴木(以下、鈴) 同じ東北出身(八重樫は岩手、鈴木は福島)で親近感がわきますね。同じスポーツでも野球とボクシングでは節制の割合が違う。世界で渡り合えるプロフェッショナルだし尊敬に値する。1試合にかける思いが全然違うと思うんです。僕らは143試合ある。切り替えができる。世界戦は年に何戦もない。極限を超えて追い求めて。外より内なる勝負で自分と向き合う。そこにすごい特化している。(減量中は)食べられない。水も飲めない。でも技術を身につけなきゃいけない。相反する部分で心技体が求められる。すごいなと。

八 減量は苦としてないんですよね。何月何日の何時に軽量すると。そこに気持ちも持っていく。同時進行で減量に対するつらさはそんなにないんですよね。

鈴 それは最初からですか? それとも経験を積まれてそうなったのか。

八 22歳でプロになったんですが、最初のほうは試合に対する気持ちもなくて。何回か負けを重ねるようになってから1回の負けに対する比重が高まった。メンタルもできてきましたね。それに向かって準備も気持ちが高まるようになって。繰り返していくうちに試合までの期間で覚悟を作り、計量して試合するというスパンができるようになった。負けから得られる経験が多かったです。負けちゃいけないけど僕は負けが多い世界チャンピオンなんです。6敗もしている。普通は多くて3敗。負けても応援してくれている人、声をかけてくれている人がいるから続けられる。

鈴 僕は(代走で出場時は)自分で出られないんで。誰か塁に出られないと試合に出られない。集中過多にならないようにしていました。いつもモチベーションを8割にしている。ベースを踏んだ時に100パーセントになれるように心を持ってく。試合の中で経験させてもらって、ここで塁に出られるって決めつけちゃいけない。そこで(代走が)ないと気持ちをまた作るのに苦労する。ボクシングは1対1の勝負ですけど。僕もある意味投手と1対1の勝負。集中すぎると固まるんです。全体を見ながら。こっち(観客席)から自分を見ているような。遠く感じたりするんです。見すぎると近く感じる。俯瞰した目で。気持ちは攻めているんですけどね。

八 意識の作り方がすごいです。

鈴 入り込みすぎないようにしています。感性が働きやすい状態を作る。塁に行くまでは考える。行ったら感性と感性の勝負。そこはスイッチ切り替えられたほうがいいスタートができる。現役時代はそんな意識でやっていましたね。

八 選手の目を見てボクシングをやる選手がいますけど、僕は相手の胸のあたりを見て予測で動いていましたね。相手を見すぎるともらっちゃう。体や雰囲気を察してこう動いていく。なんか似ていると思います。

鈴 この辺(耳の前に手を置いて)で目を見る意識ですね、ぼんやりした感じで見られる。身体意識というトレーニングでぼんやり見られるようになった。適当という言葉が正しいか分からないけど、ストイックにやるほうなので適当にやったほうがいいかなと。そこでよく観察していましたね。

八 人間観察もしますか?

鈴 電車に乗ったらしますね、人の表情や仕草を日常から養う、現役時代は。生きてくるんですよ。感性の部分で。相手の意識よりも自分の意識を植え付けさせる。相手の意識じゃなくて自分の間合いでボクシングができたらいいじゃないですか。自分もそのエリアでできるように。そうなると強みになる。相手も勝手にミスしてくれるかもしれないし。

八 すごい考えてらっしゃるんですね。

鈴 一つのポジションしかないので。それがダメだと勝負できないところもありました。

八 自然と極める方向に行きました?

鈴 そこ(代走)に行ったからこそ経験できた。一瞬の勝負なんですけどね。

八 瞬間を切り取るような。

鈴 はい、一瞬のスタートが手遅れになる。足の速さだけじゃない。スタートの瞬間の見極める能力だったり感性だったり決断力だったり。たまに開き直るときもある。投げやりではなくて。それぐらいの気持ちでいくと固める動作をなくしていきたい。弛緩と緊張というのはあるけど、緊張してもそこのポイントに向かってバーンと行くのでなくて。

八 僕もボクシングで打つときは「抜ける」感じですね。投球と似ている。

感性の重要性


鈴木尚広氏(左)、八重樫東選手


八 僕は考えて動く選手じゃない。「風を感じてやりなさい」と松本(好二)トレーナーに言われます。第1ラウンドのファーストコンタクトが一番神経を使う。相手の力量が分かる。ポカしないように。だけどギューッと入るんじゃなく、風を感じて自分のプランを作っていく。もともと戦術的なものは2パターン、3パターンくらい試合前に練習するので。こうなったらこうと決めてやるけど、それ以外の状況になったときに風を感じて戦えるように。

鈴 風を感じるというのは表現で言うと圧を感じてということ?

八 相手とのやり取りを感じるというか。こういう角度で打ってくるんだなって。こんな感じでって。勝手にやり取りをするけど。パンチが飛んで来たらパンチで反応して体が動いていく。相手の雰囲気に合わせる作業というか。

鈴 ある種、同調するというか。

八 そうです。自分のパンチも当たるようになって相手とのリズムも合ってくる。自分のパンチが当たればペースでのみこんでいくというか。相手がうまくいくときもある。向こうがペースをつかんでいくときもある。そういうときは間を一回おいて空気を入れ替えるというか。それが1ラウンドのやり取りというか。

鈴 外から見るのと中から見るのは全然違いますね。最初のファーストコンタクトはけん制するのかなって。

八 反応を見るという作業でもあります。大体1ラウンドで分かる。「これやばいな」、「これたいしたことないな」って。そこから世界戦は12ラウンドあるので。「こいつやべえな」って思ったらそこから12ラウンドかけてどう崩そうかなと思考に切り替わる。前半押したら向こうは落ちるなとか。1ラウンドで自分で判断して終わったときにコーナーに帰ってどんな感じか(セコンドと)やり取りして。

鈴 まさに感性の会話ですね。勉強は教科書があればできる。でも感性の部分は自分の意識がないとできない。ビジョンもああして、こうしてと芽生えてくる。自分が主導権を握って物事を考えていますね。

<後編に続く>

●鈴木尚広(すずき・たかひろ)
1978年4月27日、福島県相馬市生まれの39歳。相馬高から96年ドラフト4位で巨人入団。俊足好打でチームに貢献し、昨季限りで現役引退した。代走で132盗塁は日本記録。盗塁成功率は.829で200盗塁以上の選手では最も高い。通算1130試合出場で打率.265、10本塁打、75打点。身長180センチ、体重78キロ。右投両打。

●八重樫東(やえがし・あきら)
1983年2月25日、岩手県北上市生まれの35歳。拓殖大在籍時に国体でライトフライ級優勝。アマチュア戦績は70戦56勝(15KO)14敗。卒業後に大橋ジムに入門。元WBA世界ミニマム級王者、元WBC世界フライ級王者、元IBF世界ライトフライ級王者と世界3階級制覇を成し遂げる。スーパーフライ級で日本人初の4階級制覇を目指す。身長162センチ。右のボクサーファイター。

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※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

記事・写真提供=ココカラネクスト編集部 平尾類
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