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スペシャルインタビュー

豪州野球連盟CEOの野望「最大のゴールは野球をオーストラリアのNo.1スポーツにすること」

 

3月3日ナゴヤドーム、3月4日京セラドームで、侍ジャパンとオーストラリア代表チームの親善試合が行われた。このオーストラリア代表チームを率いて今回来日したのが、同国野球連盟(Baseball Australia、以下BAと略)CEOのカム・ヴェール氏。昨年4月に就任以降、傘下のプロ野球リーグABL(Australian Baseball League)を含めたBA改革に乗り出している同氏に、これからの同国野球と日豪関係について聞いた。

「豪州野球の輝かしい将来へ、この2カ月が正念場」


3月3日の試合で好投した先発のブラックリー


――ABLには日本からもNPBの埼玉西武ライオンズ、社会人のホンダ硬式野球部が選手を送り出しています。今回の改革の目玉として、現在の6チームによるリーグが、来季から8チームに拡大するそうですね。

「そうです。リーグ発足9年目となる来季は、新たに2チームを加え、8チームによるリーグ戦を計画しています。それと同時に、既存の6チーム(メルボルン、シドニー、ブリスベン、キャンベラ、アデレード、パース)についても、日本や韓国のプロ野球と同様、親会社となる民間企業を探しているところです。新たに加入する2チームのうち1チームはおそらくニュージーランドから、1チームはオーストラリアの別の都市かあるいはアジアからの加入になる予定です」

――12月にその構想が発表されてから、2カ月超。進捗状況はいかがですか?

「手ごたえを感じています。選手たちの(17/18)シーズンは、今回の日本遠征をもって終了。これからの2カ月が、われわれにとっては正念場ですね。この3月、4月で新加入の2チームを確定し、既存の6チームの新オーナーによる運営を始めなければなりません。この2カ月の運び方次第で次の18/19シーズンだけでなく、さらにその先、リーグをどこまで大きくできるか、将来像が見えてくるのではないかと思います」

――オーストラリア国内では、どんな都市が新チームの本拠地候補に挙がっているのでしょうか。

「日本人の皆さんにも観光地として有名なゴールドコーストをはじめ、以前千葉ロッテがキャンプを張ったジーロン、ほかにウーロンゴン、タスマニアなどが、候補地に名乗りを挙げています。ニュージーランド国内にも候補地がありますよ」

――ニュージーランドにも、プロ野球を開催できるスタジアムがあるんですね。

「来シーズンから野球場としても使えるラグビー・スタジアムを今、検討してもらっているところです」

――ニュージーランドのチームは、いわば野球のニュージーランド代表のような選手構成になるのですか?

「ニュージーランド人の選手中心ではありますが、既存の6チーム同様、国外からの選手も加えることになります。MLBとの提携(マイナーチームからの選手派遣)は長年続いていますが、アジア3カ国のプロ野球からより多く選手を派遣してもらえるよう、NPB、KBO(韓国野球機構)、CPBL(中華職業棒球大連盟)とも話し合いを進めています。NPBに関していえば、将来的にABL各チームとNPBの各チームが個別に提携を結び、3〜5選手を派遣してくれることを期待しています」

「アジアシリーズを再開させ、オーストラリアで開催を」


オーストラリア野球連盟CEOのカム・ヴェール氏


――過去2シーズン、社会人野球のホンダ硬式野球部から選手が派遣されていますが、社会人チームについては、どうお考えですか?

「ホンダは16/17シーズンはシドニー、17/18シーズンはアデレードに選手を派遣しました。ABL各チームとも、NPBだけでなく社会人野球チームとの提携にも、非常に大きな将来性があると感じています。双方が選手派遣し合えるような、可能性のある選手がどちらの国にもいるはずです。また、オーストラリアの気候を生かし、ぜひトレーニングキャンプにも来ていただきたいですね」

――エクスパンションのほかには、どんな改革を考えていらっしゃいますか?

「計画は、たくさんありますよ。大きなものはABL以外で、実はいま、CPBLにオーストラリア人のチームをひとつ持っていけないか、話し合いを進めているところです。それから、われわれはアジアシリーズの再開を強く望んでいて、数年後にはぜひオーストラリアで開催したい。そのためにも、それに見合う新スタジアムか、あるいは現存のスタジアムのアップグレードを考えています。それができれば、年代別のワールドカップやWBCの地区予選など、大きな国際大会をオーストラリアで開催することも可能になりますからね」

――ABLのリーグ発足の2010年から5年間は、MLBがABLの株75パーセントを持ち、その投資のもと、リーグを運営していました。16年にMLBがその株を手放し、BAが100パーセントの株主となって2シーズン。リーグの存続を危ぶむ声すらありましたが……。

「確かに、この2年間は厳しかったですよ。だからこそ、こうした思い切った改革につながったわけです。ただ昨シーズンからABL中継の視聴率が――日本もそうなんですが、特に台湾で顕著に伸びているんです。これは喜ばしいことですし、いかに野球が日本や台湾で人気のスポーツなのかをあらためて実感しています。アジア地域を重視して連携を深めることは、経営面でも非常に大切であるといえますね。厳しい2年間を経て、今また成長を始めているところと理解してください」

「アジア各地域に選手を送り込みたい」


――今後のオーストラリア野球発展のためには、さらに何が必要ですか?

「やはり、ABLの発展ですね。スポンサー、放映料、チケットや物販の収益で、選手の報酬を上げること。そしてオーストラリア人選手には、プロとしてプレーする機会をより多く与えてあげたい。まだ多くのオーストラリア人選手は、ほかの仕事と掛け持ちで野球をしています。彼らが“フルタイムのプロ野球選手”としてプレーできるよう、後押しをしていかなければなりません。また先ほども申し上げたように、国内に素晴らしい施設を作って、トップエリートを育成できるようになることですね。この3つが叶えば、代表チームはさらに強くなり、野球というスポーツの認知度も上がって、野球のすそ野も広がります。わが国は、世界有数のスポーツ大国と言われています。いつか野球をオーストラリアのNo.1スポーツにするのが、最大のゴールですよ」

――今回の日本遠征の収穫と、今後の日豪関係について、お教えください。

「今回の遠征では、スティーブ・フィッシュ新監督率いる新チームの国際的なお披露目ができました。また、東京都府中市とは今回の親善試合だけでなく、19年のプレミア12、20年の東京五輪でも事前キャンプ地とする契約を提携しています。今回は市内の小学校で子どもたちと交流して、大歓迎してもらい、“まるでロックスターになった気分だった”と、選手たちもみんな喜んでいましたよ。NPBやJABAともよい話し合いができ、この先各チームとの前向きな話し合いにつながりそうです。両国は政治的にも、ビジネスや貿易面でも、また観光や教育面でも、重要なパートナー。野球を通しても、これからさらに素晴らしいパートナーシップを築いていくことを願っています」

――ところでこれは質問ではなくお願いでもあるのですが、もっと積極的にオーストラリア人選手を日本へ送り込んではいかがでしょうか。

「そうですね(笑)。オーストラリア人選手は、大学からアメリカで野球をする選手も多いため、やはりアメリカが第一の目標になってしまうんですよ。でも、私の仕事はオーストラリア人選手の仕事場を増やすこと。オーストラリア人選手だからといって、アメリカ野球が合う選手ばかりではありませんし、日本で長く野球ができるのなら、それは彼らにとってもいいことです。アメリカと、日本を含めたアジア地域に、同じくらいの数の選手を送り出せるようになるといいですね。私は押しの強いCEOなので(笑)、選手たちにもそう言って、日本球界入りを勧めていきますよ」

文=前田恵 写真=BBM
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