第90回記念選抜高校野球大会が3月23日、阪神甲子園球場で開幕した。球児による13日間（準々決勝翌日の休養日1日を含む）の熱戦が繰り広げられるが、現場でしか分からない「センバツリポート」をお届けしていく。

ケガの影響を感じさせないプレー

　アドレナリン。甲子園とは、不思議な場所だ。グラウンドに立つと、自然と体が動く。本能的に出てしまったようだ。

　大阪桐蔭高の四番・藤原恭大（3年）は伊万里高との初戦（2回戦）の2回裏、右前へ安打を放った。並の選手ならば、一塁オーバーランの当たりである。

「一つで止まろうかと思いましたけど、（一塁ベースを）踏んだあたりで、これは行ける、と」

　まだ8割の状態ながらも50メートル5秒7の快足を飛ばして、二塁を陥れた。単打を二塁打にしてしまう積極走塁こそ、スピードスター・藤原の真骨頂である。

「ケガした中でも、二塁に行けたのは良かった」

　昨年11月の明治神宮大会後、疲労蓄積による右ヒザ付近の筋肉の炎症により、戦列を離れた。3月の対外試合解禁後も打席中心で、コンディションを見ながらの出場。センバツ初戦前日の練習で走塁・守備練習にも本格的に加わり、本番に何とか合わせてきた形だ。

　別メニュー調整期間は13種類ほどのチューブトレで補助トレーニング。また、ストレッチを繰り返し、ケアにも余念はなかった。本来、藤原は不動の一番としてチャンスメークし、ダイヤモンドを疾走して、得点するのが必勝パターン。だが、右ヒザへの負担が考慮され、西谷浩一監督の配慮により、この日は四番で起用された。

　痛み止めの薬を服用し、患部にはサポーター。試合前は「際どいタイミングでは走らない。一、三塁コーチャーとも話しています」とやや弱気な発言も聞かれたが、プレーボールしてしまえば故障も無関係。あるNPBスカウトが「（ケガの）影響を感じさせない。普通にプレーしている」と、ビックリする先述の好走塁である。

　二塁到達時には、右ヒザを下にしてのスライディングも解禁。「無意識。反射的にやってしまった」と苦笑い。大量リードしたこの日は途中交代したが、アクシデントではなく「念のため」である。

　復帰戦で計2安打を放ったものの、打点0に終わり「四番はチャンスで一本が求められる。しっかりかえしていきたい」と、次戦へ口元を引き締めた。前年優勝校・大阪桐蔭高は伊万里高との初戦を14対2で快勝。センバツ史上3校目の春連覇へ向けて好発進であると同時に、藤原が戦線へ戻ってきたのは明るい話題だ。

文＝岡本朋祐　写真＝毛受亮介