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【MLB】「マネーボール」の出塁率重視から「フライボール革命」の長打率重視の時代へ

 

マイナー時代にアッパー打ちを体得し、昨年ナ・リーグ新人本塁打記録を塗り替えたドジャースのベリンジャー。彼はまさしく「フライボール革命」の申し子と言える


 パドレスの牧田和久投手が、オープン戦で自チームがシフトを敷いたときの戸惑いをこう語っていた。

「試合では自分の経験していないことが起こる。左打者相手にシフトを敷かれて、三塁が空いていて、そこに打たれたらどうするんだと思いますけど、打者にすればそういうので自分の打撃フォームを崩されたくない。シフトを敷かれていないほうに打ったら男じゃないみたいなプライドもある。そういうのも勉強ですね。日本なら絶対にバントをしたり、インコースに来ても押し出したりする。こっちでは、それは男としてどうなんだ、みたいな感じ」

 実際、その場面では昨季25本塁打のアスレチックス、マット・ジョイスが、3球目外角に沈むシュートを引っ張って、三塁手のチェイス・ヘドリーが二塁の定位置付近でゴロを処理した。この例にあるように、今のメジャーでは打者の打球の傾向からシフトを敷くのは常識である。とはいえ、メジャーの打者が、守備選手が集まる方向に引っ張るのは男のプライドだけではない。

 昨季から日本でも報道されているフライボール革命ゆえだ。最近では、打者はどの方向に打ち返すかではなく、打ち上げて野手の頭を越えれば良い結果が出ると信じている。昨季ドジャースで新人王に輝いたコーディ・ベリンジャー一塁手はルーキー・リーグにいた2013年、14年、428打席でわずか4本塁打だった。それがアッパーカットでボールの下3分の1をたたくスイングに変えると、15、16年は1021打席で56本塁打。17年にメジャー昇格を果たしナ・リーグ新人記録の39本塁打をマークした。

 彼にスイングを教えたのはマイナーのデイモン・マショアーコーチ。バリー・ボンズとマーク・マグワイアのビデオを見せ、打球の角度を意識するように教えた。“ゴロは本塁打にならない。センター返しは忘れてパワーで打て”と。もともと日本のプロ野球の打撃スタイルとMLBの打撃は異なる。だが今、起きているフライボール革命で違いがさらに広がったと思う。

 牧田は「日本の打者はきわどいところをファウルにする技術があり、詰まりたくない、先っぽに当てたくないというのでちゃんとミートしてくる。こっち(メジャー)は詰まろうが先であろうが、力で打ってホームランになればいいという考え」と分析する。同じく今年がメジャー初挑戦の平野佳寿は3試合連続好投しながらも、1球のミスを3試合連続ソロ本塁打され、「甘い球を簡単にホームランにされる」と驚いていた。

 今から15年前「マネーボール」が登場したとき、打者にとって打率より出塁率が大事と教えられた。それが今や出塁率より長打率である。そしてスタットキャストのデータで、一番本塁打が出るのは打球角度が26度で打球速度が90マイル(約144キロ)以上と判明。多くの打者がそれを目指して振り上げる。おかげで本塁打か三振、プラス四球が増え、守備が絡まないプレーが2.98打席のうち1打席と、史上最も割合が高くなった。

 よほどの当たり損ないでない限り、誰もいない場所に打球は来ない。牧田、平野の両ベテランが、まったく異なる打者のアプローチに今後どう対処するか、とても楽しみである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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